研究課題
環境ストレスによるヌクレオチドプールの恒常性破綻が引き起こす生体障害について以下の成果を挙げた。① 2-ヒドロキシアデノシン(2-OH-Ado)は、細胞内に取り込まれるとアデノシンキナーゼ(ADK)により2-OH-ATPに変換され,細胞増殖の抑制とカスペース依存性のアポトーシスを誘導することがわかった。② ITPA欠損細胞はDNA中にデオキシイノシン(dIno)を蓄積し、細胞増殖を抑制する。DNAおよびRNA中のdIno/Ino除去酵素endonuclease V (EndoV),あるいはヒポキサンチンDNAグリコシラーゼ活性を持つmethyl purin DNA glycosylase (MPG)の欠損はITPA欠損の表現型を増悪したが、ミスマッチ修復酵素(MLH1)欠損は細胞増殖抑制を回避することが明らかになった。③ X線を頭部に限定して照射したOGG1/MTH1二重欠損マウスにおいて、野生型では見られない自発運動の低下と海馬神経細胞突起に顕著な8-oxoGの蓄積を認めた。④ MTH1/OGG1二重欠損マウスは寿命、発がん頻度ともに野生型マウスと差が認められなかったが,MTH1/OGG1/MUTYH三重欠損マウスでは生後50日からがん死が認められ、多様な臓器における自然発がんと寿命の短縮を認めた。OGG1/MUTYH二重欠損マウスでは、三重欠損マウスに比較して有意な寿命の延長と発がん頻度の低下が認められた。⑤ MTH1/OGG1/MUTYH三重欠損マウスの生殖細胞系列において、G:CからT:Aへの突然変異が野生型の200倍以上の頻度で生じ,さまざまな変異形質をもたらすことが明らかになった。⑥ アルツハイマー病のモデル(3xTg-AD)マウスにMTH1/OGG1の二重欠損を導入したところ認知機能の早期障害を認めた。
2: おおむね順調に進展している
① ATPの酸化体の2-OH-ATPによる新たな細胞障害機構、② dATPの脱アミノ化体であるdITPによる細胞増殖阻害、③ 放射線の脳照射によって誘発される行動異常のMTH1とOGG1による抑制、④ 8-oxo-dGTPが体細胞ならびに生殖細胞系列の自然突然変異の主要な原因であることを証明、⑤ アルツハイマー病における酸化ヌクレオチドの関与を示唆するなど、当初の目的をほとんど達成するとともに、アルツハイマー病におけるヌクレオチドプール恒常性維持機構の重要性を示すなど世界をリードする独創的な成果が得られつつある。
老化に伴う酸化ストレスなど、内的環境ストレスがアルツハイマー病の進展に関与することが強く示唆される結果が得られており、具体的にヌクレオチドプールの恒常性破綻がどの程度アルツハイマー病の進展に関与するのか、詳細を明らかにできると考えている。わが国でも高齢者人口の急速な増加とともに認知症患者も増加しており、厚生労働省の推計によればその数は現在500万人を越える可能性があるといわれている。予防、早期治療を含めた総合的な対策を講じてこの老年期認知症の増加に歯止めをかけることは、わが国の医療行政における焦眉の課題である。ヌクレオチドプールの恒常性破綻によるアルツハイマー病の進展の機序を解明することで、この社会問題の解決に貢献したい。
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