研究課題
内泌撹乱化学物質・ビスフェノールA(BPA)の低用量作用が懸念されるなか、胎児(仔)期の脳神経成長に影響する可能性が判明した。本研究では、まず、この分子機構を解明することを目的とする。一方、BPAの代替としてビスフェノールAFなどを原料とする新プラスチックが続々と開発され、生産量が急増している。本研究ではこうした新世代ビスフェノールの核内受容体を介したシグナル毒性、内分泌撹乱作用の分子機構の解明にも取組む。本年度、新たに明らかとなった主な項目は、以下の通りである。ビスフェノールA(BPA)をマウス及びショウジョウバエに暴露し、その影響を核内受容体遺伝子や時計遺伝子の異常性や活動リズムの異常性(多動性や低活動性)に求め、そして、mRNAへの影響を解析した。その結果、3’ UTRに塩基変異が集中し、また、選択的ポリアデニレーションに異同が起きていることが判明した。さらに、こうした遺伝子への影響は、ERRγの転写制御の有る無しに関わらず起こることが判明した。このような分子レベルでの内分泌撹乱作用の影響解析はこれまでに例がない。ER受容体に結合性の弱いBPAが、強いエストロゲン様活性を示す原因が、ERRとの協働作用であることを初めて明らかとした。BPAはERRに結合不要で、ERに結合することが必要なこと、また、ERRのDNA結合は必要がないこと、しかし、ERRの自発構成活性が必須なことなどが判明した。さらに、ハロゲン化メチル基が一つでも存在すると、ビスフェノールはERαにアゴニスト、ERβにアンタゴニストとして働くことが明らかとなった。また、ビスフェノールA誘導体が、小胞体膜に存在する受容体タンパク質に結合することが初めて判明した。化学物質のシグナル毒性が、核内受容体や細胞膜受容体だけでなく、細胞内オルガネラの膜タンパク質一般に及ぶ可能性が実証された。
1: 当初の計画以上に進展している
マウス脳の核内受容体の全49種について、その遺伝子配列の変異解析、また、胎仔期の発現量解析を完遂し、ERRγの転写制御の有る無しに関わらず遺伝子に異動、変異、選択性変動などが起こることを明らかとした。これにより、次の段階の解析ポイントが整理され、大きな進展が可能となった。また、ビスフェノールAの低用量作用性の原因の一つが分子レベルで明らかとなったこと、また、小胞体膜受容体にも結合することが見出されたことなど、新奇な研究成果が上がっており、当初の計画以上に進展している。
研究の進展に伴って研究内容は深化してきた。今後、マウスおよびショウジョウバエを相互に補完するモデル生物として、また、培養細胞を用いながら、最終的な目標に向かって研究を推進する。今後は特に、ビスフェノールA暴露による多動性症状マウス及び低活動量ショウジョウバエの作出と遺伝子影響解析やメチル基の数の異なるビスフェノール暴露による遺伝子変異の異同の解析等から、ビスフェノールA暴露の遺伝子影響の分子メカニズムの解析を試みる。また、時計遺伝子、概日リズム伝達ペプチドの遺伝子などを含め、関連の遺伝子の影響解析から、ビスフェノールAの低用量効果の分子メカニズムの解析に鋭意に取り組む。
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