研究課題/領域番号 |
22221006
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 清三 大阪大学, 産業科学研究所, 特任教授 (50091757)
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研究分担者 |
阿部 真之 大阪大学, 極限量子科学研究センター, 教授 (00362666)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 多元素ナノ構造体 / 室温物性 / 原子操作・組立 / 多角的物性評価 / 二次元ナノ空間 / 原子開閉 / 原子クラスタ |
研究概要 |
(1)室温でAFM/STMの探針-試料間Z距離依存性を同時測定した結果、探針を近づけた二次元ナノ空間[Si(111)7x7ハーフユニットセル(HUC)]に隣接したHUCに閉じ込められていた熱拡散する金原子が「原子開閉」により探針の有るHUCにジャンプすると、①探針と基板の間に直接流れるトンネル電流と平行に金原子を経由するトンネル電流が新たに流れ始めること、②飛び込んできた金原子を経由して探針-基板間に短距離力(共有結合力)が働き始めること、③飛び込んできた金原子が探針に短距離力でトラップされることを見出した。 (2)室温でAu原子やAg原子をHUCに閉じ込めて、原子開閉でクラスタサイズを大きくしていった結果、①Ag12クラスタのあるUnfaulted HUC (UHUC)に隣接するFaulted HUC (FHUC)に原子開閉でAg原子やAg2を入れても、Ag12の有るUHUCと隣接した3個のFHUCに広がって動きまわるだけで合体しないこと、つまり、②UHUCにAg12クラスタが出来るとAg原子やAg2のある隣接するFHUCとのバリアが無くなること、③UHUCのAg12クラスタは安定だがAg13やAg14はエネルギー的に不安定であることを見出した。また、④Au11クラスタがあるHUCに隣接するHUCに一個のAu原子を原子開閉で入れるとAu11が一個のAu原子を放出してAu10に戻り、隣接するHUCの一個のAu原子がAu2になること、⑤このAu2を別の隣接するHUCから原子開閉でAu10のあるHUCに入れるとAu12ができること、つまり、⑥Au11クラスタが準安定で隣接するHUCに一個のAu原子が来ると不安定になり崩壊すること、⑦Au10クラスタは相対的に安定で隣接するHUCに一個のAu原子やAu2が来ても不安定化しないことと二次元ナノ空間のバリアが有効であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究目的は、多元素ナノ構造体の室温組立と評価により「多元素ナノ構造体の室温物性」と言う新学問領域を開拓することである。この実現のため、二種類の研究を推進してきた。一つ目の研究は、AFMとSTMを複合化したAFM/STMを用いてAFM 機能で「力学的物性」をSTM 機能で「電子的物性」を、原子分解能で同時測定する手法を確立して、原子分解能の多角的物性評価を実験的・理論的に行う研究である。この研究に関して、AFM機能の研究としては様々な試料でフォース・カーブやフォース・マッピングの原子分解能測定やケルビン力顕微鏡法による接触電位差の原子分解能測定に成功した。二つ目の研究は、原子操作に関する研究で、「基板の上に載せた原子」の場合、室温では熱エネルギーにより吸着熱原子が動き回るので水平原子操作は困難で、熱的に不安定なナノ構造体作成も無理との既成概念が有ったが、本研究では、その既成概念を打破することに成功した。我々は、揺らぎの大きい室温で、表面の二次元ナノ空間であるSi(111)7x7ハーフ・ユニット・セルに吸着熱原子をバリアで閉じ込めて、バリアをAFM/STMの探針で開閉する新手法を開発した。特筆すべきなのは、Si4のような孤立した少数の原子からなる吸着原子クラスタが室温でも多様なスイッチング現象を示すことが発見されたことである。この発見は、少数の原子からなる多様な機能を持つ室温原子デバイス開発の可能性を実験的に示唆している。本年度は、「原子開閉」に伴うトンネル電流の変化、短距離力(共有結合力)の有無、エネルギー散逸の有無を実験で測定して、原子開閉の機構解明に必要な詳細な実験データを得た。また、二次元ナノ空間に閉じ込めたAg原子やAu原子のクラスタサイズの上限や室温での安定性について実験的に明らかにした。したがって、今年度もおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特筆すべき成果として、「基板の上に載せた吸着熱原子は室温では動き回るので、吸着熱原子を用いた多元素ナノ構造体の室温組立は無理」との既成概念を打破する「閉鎖ナノ空間のAtom Gating(原子開閉)」の新現象発見と新手法開発に成功した。さらに、Siテトラマー(Si4クラスタ)のような孤立した少数の原子からなる吸着原子クラスタが「室温でも多様なスイッチング現象を示すことを発見」した。この発見は、少数の原子からなる多様な機能を持つ室温原子デバイス開発の可能性を実験的に示唆している。そこで、後半の2年間は、原子開閉を利用した多元素ナノ構造体の室温組立と評価に主力を注ぐことにした。今年度は、(1)室温原子開閉の機構解明に必要な実験データ取得と(2)Si(111)7x7ハーフユニットセルの二次元ナノ空間に閉じ込めることが可能と本研究で確認したAg原子やAu原子などの、二次元ナノ空間を動きまわる吸着熱原子に関して、AFM/STMによる原子開閉の手法で、AuクラスタやAgクラスタの閉じ込めの上限と室温での安定性を明らかにした。最終年度となる来年度は、(3)Siテトラマーのスイッチング現象の機構解明を実験と理論計算で行う、(4)室温でSTMトンネル電子注入による電子的スイッチングが起こることや、実験的には一個または二個のPb原子が異種原子のSiアドアトムと位置交換している可能性が有ることを新たに見出したPbトライマー(Pb3クラスタ)を構成する3個のPb原子と位置交換したSiアドアトムの吸着位置とスイッチング機構の解明をSTM局所状態密度の実験と理論計算などで行う、(5)室温でHUCの二次元ナノ空間に閉じ込められた孤立した少数の原子からなる吸着原子クラスタが基板との間で電荷移動を行っている可能性に関して、ケルビンプローブ力顕微鏡(KPFM)で実験的に調べて理論計算との比較を行う。
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