固体電子回路における電子スピン情報を光伝送するための新しい光デバイスであるスピンレーザーの実現を目指して、レーザー光発振中に電子スピン状態を維持することが可能な半導体量子ドットを活性領域とする「量子ドットスピンレーザー」を研究する。 平成22年度は、主要な研究課題である半導体量子ドット層と接合する金属強磁性体の原子層制御エピタキシャル成長に関する準備を行った。そのため、化合物半導体分子線エピタキシーチャンバーと超高真空金属磁性体蒸着チャンバーを超高真空基板搬送システムで連結した「複合型超高真空エピタキシーシステム」を平成23年2月に導入した。その後、立ち上げ調整と基本性能の確認を実施した。 また、半導体表面における金属強磁性体ナノ構造スピン電極作製のため、電子ビームリソグラフィーを用いて半導体薄膜表面にスパッタした金属薄膜の微細加工を行った。その結果、200nm四方で四隅が10nmの精度で直角に加工された電極構造の作製に成功した。さらに、STM/NC-AFMシステムにより、半導体表面および金属強磁性体薄膜表面のナノスケールでの形態観察とその強磁性スピン状態の計測を行った。 半導体量子ドットに対する高効率電子スピン注入プロセスを確立するため、希薄磁性半導体薄膜と自己組織化量子ドットからなる複合ナノ構造を分子線エピタキシーにより作製した。希薄磁性半導体において光励起したスピン偏極電子の量子ドットへのスピン注入ダイナミクスを、磁場中スピン分解ピコ秒発光分光システムにより実時間計測し、スピン保存率80%の高効率電子スピン注入を実現した。また、詳しい励起スピン密度依存性より、スピン保存電子トンネルとスピン非保存電子伝導が注入時のスピン保存率に与える影響を定量的に明らかにした。
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