電子スピン情報の光伝送を目指して、レーザー発振中に電子スピン状態を維持可能な半導体量子ドットを活性領域とする量子ドットスピンレーザーを研究する。 今年度は、引き続きInGaAs量子ドットへの電子スピン注入ダイナミクスの研究を行い、状態密度が制限される量子ドットにおいてスピンのパウリブロッキングによりスピン注入が阻害され、その対策として量子ドットの高密度化が非常に有効であることを示した。さらに、トップダウン型ナノ加工による極限的な高密度を持つ量子ドットの作製に成功し、スピンの保持や室温までの高効率発光を示した。 また引き続き、室温動作可能なFeCo強磁性体電子スピン電極を持つスピン注入型発光ダイオードを作製し、量子ドットへの電流スピン注入実験を行った。三次元半導体バリア層中のスピン輸送に着目しバリア層の結晶成長とドーピング条件の最適化を行った結果、量子ドットの電流注入発光において200 Kで5 %の円偏光度を得た。これは、FeCo中電子スピン分極の15 %が量子ドットまで輸送注入され発光の円偏光特性に寄与した結果を示している。さらに、室温でも2 %の円偏光度を得ており、室温動作可能な量子ドットスピン光デバイスの実用化に向けた可能性を示した。 さらに、二次元電子系から量子ドットへの超高速スピントンネルの研究を継続し、量子井戸から量子ドットへの電子のトンネル確率に依存する井戸中局在状態のパウリブロッキングの影響を明らかにした。トンネル確率の高い厚さ6 nm以下のバリアにより、トンネル注入時のスピン保存率が90 %で注入時定数が10 psの超高速スピントンネルを実現した。スピントンネル過程では熱によるスピン分極の低下は見られず、トンネル後の電子の三次元バリア層への熱励起再分布によりスピン緩和が生じることを示した。以上より室温動作に向けたスピントンネル量子ドット構造の設計指針を得た。
|