研究課題/領域番号 |
22221009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白髭 克彦 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (90273854)
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研究分担者 |
広田 亨 公益財団法人がん研究会, その他部局等, 部長 (50421368)
伊藤 武彦 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (90501106)
須谷 尚史 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (30401524)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | ChIP-seq解析 / 染色体動態 / 染色体情報 / 染色体構築 |
研究概要 |
1. 染色体情報解析システムDROMPA(DRaw and Observe Multiple enrichment-Profiles and Annotation)の開発 大規模なChIP-seq解析においては各サンプルの抽出条件を吟味するために多くの時間的コストが必要となる。高速・省メモリなピーク抽出プログラムDROMPAを開発した。本手法は次の3つの特徴を持つ。(1)マップファイルを予め染色体毎のwigファイル(ゲノムにマップされた断片配列の部分領域ごとのヒストグラム)に変換し、ChIP-seq解析全体に必要な時間と計算コストを削減した。(2)ピークリストだけでなく、wigデータをpdf形式で可視化することが可能。これにより、タンパク結合抽出の閾値が妥当であるかを直観的に判断することが可能。(3)マルチヒットのリードも全て解析に使用する為、リピート配列中の結合配列も同定できる。この3つの特徴により、ChIP-seq解析における計算機資源及び時間的コストを削減、余す所無く染色体を解析することが可能となった。 2. Hdac8タンパクのコヒーシン脱アセチル化酵素および、CdLS原因遺伝子としての同定 Hdac8をコヒーシンの脱アセチル化酵素として特定した。Hdac8の欠損をヒト細胞で引き起こし、全ゲノム上のコヒーシンの結合箇所を調べた所、正常な細胞に比べ2割その結合箇所が減少した。コヒーシンの結合箇所の減少はCdLSの疾患細胞で共通に見られる傾向であることから、原因遺伝子の特定されていないCdLSの症例についてHdac8の配列を調べた所、8例から変異が見つかった。Hdac8はゲノムから除去された使用済みコヒーシンタンパクのリサイクルを促進していたが、患者の細胞中ではリサイクル出来ないため、ゲノム上で機能できる正常なコヒーシン量が不足し転写プログラムの異常が生じていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初目標通り、染色体情報システムDROMPA(汎用性の高い初の国産のChIP-seqデータ解析パイプライン)を開発し、公表した。このシステムを用い、細胞周期、老化過程での基本的染色体動態、構築の変遷を解析した。この解析を通し、新たな染色体機能の連携、タンパク機能の発見に結びつけることに成功した。さらに、当初の研究目標を超え、疾患の分子メカニズムに迫る成果を上げ、その成果が臨床診断、酵素阻害剤の合成に応用された。これらの研究成果は、本申請が既に予定以上の成果を上げていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
染色体情報解析システムDROMPAのさらなる機能の拡充を図るとともに、昨年度までに明らかとなった染色体機能の連携機構についてその意義、分子メカニズムを掘り下げる。連携研究者に中戸博士を加え、以下の研究項目を実施する。現行のDROMPAには多サンプル間での比較解析機能が備わっていないためその機能を実装し、より効率的にDROMPAを運用する。 1) DROMPAの機能拡充と多サンプルの横断的な比較による染色体動態の統合的なモデル構築(白髭、中戸、須谷) ここでは以下の3つの機能開発に焦点を絞る。a)サンプル間の配列の偏りを補正する正規化手法の実装、b)サンプル間クラスタリング手法の開発、c)各サンプルのピーククラスタリング手法の開発、これらの手法をDROMPAの機能として組み込み、染色体情報解析システムを更新する。本システムを用いて多量のデータを解析し、染色体動態モデルを構築し、更新したDROMPAと共に公開する。 2)染色体情報解析システムにより予測された動態制御機構の検証(白髭、須谷、伊藤、広田) 既にここまでの研究で予測された以下の機能領域の構成と連携について検証を行う。 a)コンデンシンI複合体による転写リセット機構の解明、b)コンデンシンII複合体の局在原理の解明(細胞周期における分布の変遷のメカニズムを明らかにする)、c)コヒーシンローダーNIPBLによる転写促進複合体SEC(Super Elongation Complex)を介した転写制御機構の解明(CdLSの発症メカニズムに統一的な視点をもたらす事を目標とする)、d)Smc5/6蛋白によるトポイソメラーゼIIの局在化機構の解明、e)コヒーシンアセチルトランスフェレースEsco1の染色体局在原理の解明とその転写制御に於ける役割
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