研究課題/領域番号 |
22223003
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
黒崎 卓 一橋大学, 経済研究所, 教授 (90293159)
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研究分担者 |
高崎 善人 筑波大学, 人文社会系, 教授 (00334029)
櫻井 武司 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40343769)
北村 行伸 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70313442)
神門 善久 明治学院大学, 経済学部, 教授 (80195924)
岡崎 哲二 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (90183029)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 経済発展 / 貧困削減 / 比較制度分析 / 国際情報交換 / 多国籍 |
研究実績の概要 |
開発途上国における貧困削減・経済開発のために有益な経済発展論・開発戦略の方向性を示すことを目的とした本研究の第4年次として、平成25年度にも引き続き、経済発展データベース(DB)の整備・分析、研究分担者・連携研究者・内外の研究協力者との共同研究を進めた。DB作成を計画していた7途上国と戦前日本の8案件中、インドとカンボジアにおける2件については、研究に際しての事前調査が困難化したため繰り越して平成26年度に実施が移されたが、それも含めて、平成25年度に計画していた内容に関し、当初計画していた研究はすべて完了した。 DB整備は、アジア・アフリカでのオリジナルな調査に基づくDBと、歴史的データや既存統計のDB化の両面で顕著に進展した。アジアに関しては、インドで都市零細企業家に関する調査の結果をDB化し、パキスタンでの住民参加開発に関する第4次調査を実施し、カンボジアで学校・保健施設GPS調査を実施し、政府のGPSデータと統合したDBを構築した。アフリカに関しては、ザンビアのパネル調査が完了し、DB化に向けた原票の整理とPDF化が実施され、ブルキナ・ファソでは追跡調査を行った。他方歴史データのDB化作業として、アジア人的資本推計の精度の改善と、既存の関連データとの整合性のチェックをおこなった。戦前日本については、農家経済調査および戦前期の日本の主要企業の職員名簿の電子化を行った。 以上のDBを用いた研究成果をディスカッション・ペーパーとして公表した。ウェブおよびニュースレターを通じて、研究成果に関する一般向けの情報発信も積極的に実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度からの4年間で、比較経済発展論アプローチに関する分析をさらに深めることができた。すなわち、現途上国の分析と戦前日本など現在の先進国がまだ貧しかった時期の分析とを長期的視野に立って組み合わせること、マクロ諸変数と家計・企業レベルのミクロデータの分析とを組み合わせることにより、開発途上国における持続的な経済成長と貧困削減に資するような政策・制度を明らかにすることができるということである。歴史的アプローチと計量経済学的アプローチとの融合、マクロ的アプローチとミクロ的アプローチの融合の両方を試みたパキスタンを事例とした論文が、査読付きジャーナル(Asian Development Review誌)に公刊されたことは大きな成果であった。ただしこの論文ではまだ、ミクロ経済理論に基づいた動学モデルに厳密に対応した分析にはなっていないという限界がある。 データベース(DB)化作業は一部繰り越して実施されたものの、予定した内容はほぼ完了し、制度と組織、経済取引の詳細など、通常の国民所得データ、企業・家計データなどからは得られないオリジナルの情報を豊富に含むDBが構築されつつある。学会や国際会議等において本プロジェクトの研究成果公表が進むにつれて、このDBの認知度も徐々に上昇しており、今後、これらを公共財として学界に幅広く提供することにより、予定通りの成果が見込める。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って研究を進める予定である。すなわち、平成22~25年度の研究とデータベース(DB)構築作業を継続しつつ、関係する内外の研究者や実務家を招いた国際シンポジウムを開く予定である。また、その成果を、英文の学術出版、レフェリーつき英文学術誌、開発援助政策への関与という3つの形態で公表すべく準備を進める。DB構築作業も予定通りに進める。 研究期間終了までの最終1年間で、特に重点的に研究するのは、以下の4点である。 第一に、比較経済発展論アプローチとして、歴史的・計量経済学的アプローチとの融合、マクロ的・ミクロ的アプローチとの融合という2つの研究課題を統一的に行うためのミクロ経済理論モデルと、その数値解析モデルを完成させることが課題となる。これまでの研究成果を基に、汎用型モデルと、長期的経済発展と持続的貧困削減に鍵となる個別の論点(自然災害のインパクト、信用アクセスなど)の分析に対応した拡張モデルの両方を設計する。 第二に、実証分析の基礎となるDBを公共財として幅広く提供するための準備作業を進める。 第三に、理論モデル・数値解析モデルと、DBを組み合わせた実証分析により、農耕社会段階から前期工業化段階、後期工業化段階、さらには脱工業化段階への移行のプロセスを、複数の国を事例に定量的に分析する。これにより、絶対的貧困脱却だけでなく、先進国への移行まで見通した開発政策のあり方に関し比較経済発展論の枠組みで進めることを目指す。 第四に、個別政策設計への政策提言の精度を深め、実際の途上国の開発・貧困削減に資するような「知」を提供する。
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