研究課題/領域番号 |
22224004
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
須田 利美 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (30202138)
|
研究分担者 |
若杉 昌徳 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 実験装置開発室室長 (70250107)
栗田 和好 立教大学, 理学部, 教授 (90234559)
宮下 裕次 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 基礎科学特別研究員 (30569926)
玉江 忠明 東北大学, 電子光理学研究センター, 研究支援者 (10124174)
|
キーワード | 電子弾性散乱 / 短寿命不安定核 / 電荷形状因子 / SCRIT法 / イオントラップ |
研究概要 |
世界初の電子弾性散乱による短寿命不安定核研究に向けて、平成23年度は次に示す2点の研究を行った。 1)散乱電子測定系の検討並びに建設 2)安定な原子核を利用したSCRIT装置での到達ルミノシティーの測定並びに高度化 1)本散乱電子測定系に要求される運動量分解能はΔp/p~0.1%、一度に覆う散乱角度範囲はΔθ=30度である。さらに、SCRIT装置で捕獲される標的は電子ビーム軸上に40cm程度広がることも考慮する必要があり、これらの条件を満たす散乱電子測定系の設計並びに建設を行った。本測定系は、大型の分析電磁石と軌跡測定のためのドリフトチェンバーで構成される。電磁石は磁極ギャップ 29cm、磁極幅 140 cmで最大磁場 0.8 T(テスラ)、のウインドウフレーム型のダイポール電磁石を採用した。設置位置を最適化することで、散乱角度範囲 30~60°を覆い、全立体角 100 msr を実現する。3次元の詳細な磁場計算を行い、電子蓄積リング内の周回電子ビームへの影響を最小限とする電磁石系を建設した。建設後、詳細な磁場測定を行い要求性能が満たされていることを確認した。 2)平成23年度は、新設したSCRIT装置付きの電子加速器で電子散乱実験に必要なルミノシティー、10**27 /cm2/s、を達成するための開発研究を行った。到達ルミノシティーを測定するため、標的には安定核を使用した。安定核は、電荷分布密度が既知、即ち電子弾性散乱断面積が既知であるので、弾性散乱事象測定によりルミノシティーを決定出来るのである。加速器運転条件の最適化などの結果、10**7ヶの標的原子核捕獲で目標の 10**27 /cm2/s が達成出来ることを確認した。この研究により、新たに建設した電子散乱施設で短寿命不安定核の電子散乱実験が可能であることを証明した。これらのデータはすでに論文で発表済みである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年3月11日に発生した東日本大震災で、研究代表者を含む東北大研究グループは公私ともに深刻な影響を受けた。グループメンバーの帰国や新メンバーの着任時期の遅れ、研究所のインフラの復旧や理研への移動手段を含む交通機関の問題等もあり、震災後約3ヶ月ほど研究活動が実質的に停止した。そのため、平成23年度前半に予定していた研究計画の開始は同年7月になってしまった。再開後は東北大や理研関係者の支援のおかげで加速器運転を含む研究活動を順調に展開することができ、安定核を使った到達ルミノシティー測定並びに高度化については平成23年度末までにほぼ研究を終了することができた。 一方、散乱電子系の検討並びに建設については以下の様に当初計画から大幅に遅れてしまった。研究計画では、平成23年度に分析電磁石、平成24年度に検出器(ドリフトチェンバー)を建設し、平成24年度末に散乱電子測定系を完成させる予定であった。しかしながら、震災による仕様検討の遅れのため平成23年度内の電磁石の建設・納品が不可能になったため、研究費を繰越し建設は平成24年度にせざるを得なかった。震災復興のため資材調達が困難であったが、平成24年度内には磁場測定等のテストを含む電磁石建設が終了した。軌跡測定用ドリフトチェンバーについては、仕様検討並びにプロトタイプによるテストを経て当初の予定通り平成24年度に建設したため、最終的には平成24年度内に散乱電子測定系を完成させるとの当初の目的はほぼ達成された。
|
今後の研究の推進方策 |
東日本大震災の影響を受けて平成23年度内を予定してた散乱電子測定用の分析電磁石建設は1年遅れたが、平成24年度末に散乱電子軌跡測定用ドリフトチェンバーと共に完成し、散乱電子測定系の主要装置は揃った。平成25年度以降は、散乱電子測定系の立ち上げ調整後、不安定核からの散乱電子測定に臨む。 平成25年度は、電磁石と検出器系からなる散乱電子測定系を立ち上げ、世界初の不安定核、132Sn核(寿命 40秒)、との電子弾性散乱事象測定を試みる。不安定核は238U核光核分裂反応で生成する。平成24年度内にすでに不安定核の生成には成功している。生成した132Sn核を蓄積電子ビームに捕獲し、世界初の電子散乱測定を開始する。不安定核生成用イオン源はまだ開発中で有り、平成25年度内は約2桁低いビームパワーの電子ビーム照射で開発研究を進める予定である。 平成26年度は本研究計画の最終年である。平成25年度中に上述の捕獲132Sn核からの弾性散乱事象が確認できれば、平成25、26年度は最終目標であるルミノシティー、10**27/cm2/s、達成を目指した開発をすすめる。主として、電子ビームパワーの増強と不安定核生成用イオン源の高度化により達成する。平成26年度内に132Sn核の電子弾性散乱微分断面積測定より電荷分布密度の決定を行い、結果を発表する。その後、標的を他の同位体、126Sn~130Sn、とした測定を実施する。電子散乱により電荷密度分布が決定されているSn安定同位体、112Sn~124Sn、に、本研究で決定される126Sn~132Snの電荷密度分布を加えることで、中性子20ヶによる電荷密度分布の変化を明らかにする。
|