研究概要 |
1.前年度作製した軟X線磁気円二色性測定装置に超伝導磁石をもう1軸増設し,電源制御系も整備し,任意方向の磁場を引加できるようにして多自由度軟X線円二色性測定装置を完成させた. 2.伝導性酸化物であるSrVO_3を用いた金属量子井戸構造を作製し,強相関電子の量子化状態について詳細に検討した.その結果,「サブバンドに依存した有効質量増大」の起源として表面・界面におけるバンド幅の減少が寄与している可能性を見出した. 3.現在各国で精力的な研究が行われているLaNiO_3(LNO)超薄膜について,電荷不連続を持つLNO/SrTiO_3基板を作製し,その電子状態を明らかにした.また,電荷不連続を持たないLNO/LaAlO_3基板の結果と比較・検討することで,界面における電荷不連続が超薄膜の電子状態に与える影響を特定した. 4.V_<1-x>W_xO_2薄膜における金属絶縁体(MIT)転移の可能性について、二量体化と構造変異の可能性を軟X線吸収分光の偏光依存性測定により検証した。その結果、Wドープ量が低い領域では二量体化によるパイエルス誘起MITが、高い領域では構造歪によるMott的なMITが支配的であることが明らかになった. 5.典型的な巨大磁気抵抗系として知られるLa_<1-x>Sr_xMnO_3(LSMO).を薄膜化して起こる金属-絶縁体転移の機構を探るため,系統的な軟X線磁気円二色性(XMCD)測定を行った.金属-絶縁体転移の臨界膜厚以下で,強磁性絶縁体と常磁性絶縁体が共存する状態が現れることを見出した. 6.強磁性NiFe_2O_4(NFO)と強誘電性BaTiO_3(BTO)からなる電気-磁気結合を示す多層膜のXMCD測定を行い,元素選択的な磁性の情報を得た.エピタキシャル応力によりNiとFeの磁気モーメントが同時に増大することおよび,NFO/BTO界面においてNi磁気モーメントの消失と電気-磁気結合の間に強い相関があることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り,多自由度軟X線円二色性測定装置を整備し,酸化物を中心とした強相関係界面,ナノ構造の研究を進める.上記の新装置を用いた研究においては,マンガン,鉄などを含む磁性の強い系から測定を始めて,計測技術のノウハウを蓄積した後に,チタンやニッケルなどを含む磁性の弱い系に移行していく方針である.
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