研究課題/領域番号 |
22224006
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 礼三 独立行政法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 主任研究員 (80169531)
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研究分担者 |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 准教授 (40316930)
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キーワード | 分子性導体 / 強相関電子系 / ディラック電子系 / 電界効果トランジスタ / 光誘起相転移 / モット転移 / 電荷秩序 / 圧力効果 |
研究概要 |
強相関分子性導体(モット絶縁体)の薄片単結晶を用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製し、その性能向上と複数パラメータによる同時物性制御の検証を行った。まずプラスチック基板上の分子性導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Clの薄片単結晶へ歪みを印加し、バンド幅とバンドフィリングの同時制御を行った。モット転移近傍での電界効果測定において、250cm^2/Vsを超える高い電界効果移動度を観測した。また、high-k材料をゲート絶縁膜に用いたκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brの試料では、超伝導による低抵抗状態のON/OFFをゲート電圧の変化によりスイッチさせることに成功した。 バルクDiracπ電子系であるα-(BEDT-TTF)_2I_3のランダウ準位の直接観測を目的に、薄片単結晶への電界キャリア注入を低温・高磁場下で試み、それぞれの磁場強度下で、数%程度の抵抗変化とホール抵抗変化を得ることに成功した。また、Dirac電子系特有のゼロモードランダウ準位とそのスピン分裂が関与したと推察される磁気抵抗とホール抵抗のゲート電圧依存性を見出すことができた。 電子-格子相互作用が各々異なる電荷秩序状態を示すBEDT-TTF塩において、光励起による電荷秩序の融解を、薄片単結晶を用いたコンダクタンスと透過率の同時測定により定量的に観測し、電荷秩序の融解と電子-格子相互作用との関係を明らかにした。 デュアルπ電子系(Me-3,5-DIP)[Ni(dmit)_2]_2の輸送現象・トルク測定を行い、フェルミ面および層間相互作用の性質を明らかにした。また、ESRの角度依存性より、磁性を担う層を決定し、バンド計算の結果との良い一致をみた一方、ESR測定より、以前NMRにより指摘されていた局在πスピンの長距離秩序については再検討を要することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特長の一つは、独自に開発した薄片単結晶作成技術で得た様々な分子性導体の薄片単結晶を用いた多様なπ電子物性開発であるが、これまで電界効果によるキャリア注入、歪み印加によるバンド幅制御、光誘起相転移等に応用し、成果を得ることが出来た。装置としては、ミリ波領域に対応したESR装置が順調に可動を始めた。また、ダイヤモンドアンビルを用いた超高圧伝導度測定システムが整備された。
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今後の研究の推進方策 |
従来の計画通り、電界効果トランジスタを軸として、強相関分子性導体のバンド幅制御、バンドフィリング制御、光制御等による物性開発をさらに推進する。また、新しいデュアルπ電子系の物質開発を進める。 新しい方向性としては、(ダイヤモンドアンビルを用いた超高圧の対極として)ヘリウムガスを媒体とした低圧での精密圧力制御および(分子性導体において最初の)テラヘルツ光励起による光誘起相転移を試みる。
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