研究課題
本年度は特筆すべき成果を複数上げることができた。大型放射光施設SPring-8のBL04B1に設置されている高圧発生装置を用いて、世界に先がけて、百万気圧を超える圧力発生を川井型マルチアンビル装置で確認した。百万気圧は地球深部の下部マントル最下部に相当する圧力である。本成果は、マントル最下部に位置するD”層の物質科学研究への道を切り開くものである。さらにX線非弾性散乱法によりポストペロブスカイトのアナログ物質の結晶弾性を世界に先駆けて測定した。鉱物物理学分野において微小結晶の弾性はブリリュアン散乱法というレーザー光を使う方法で測られてきた。今回の試料はともに黒色不透明であるため、ブリリュアン散乱法は適用できない。そこで不透明試料でも測定可能な非弾性X線散乱法を用いた。ブリリュアン散乱法も非弾性X線散乱法もフォノン(試料内の格子振動の音子)とフォトン(光子)の相互作用を測定する点では同じであるが、使うフォトンのエネルギーが異なる。SPring-8、BL35XUでは12個の散乱光受光素子が並列に設置されており、一回の測定で12個のデータが能率的に取得できるようになっている。入射X線に対し試料の方向を変えた測定を何回か実施し百個程度のデータを取得した。このデータに対し最小二乗法により結晶弾性を決定した。Cmcm-CaIrO3のa-b、b-c、c-a平面内の音速変化から、a-b平面とc-a平面内での二つのS波速度の大小関係が全く異なるのが見て取れた。この特徴の違いから、地震波で検出されたD”層の地域性をMgSiO3ペロブスカイトの選択配向の様式の違いで説明することができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題において、熱伝導率や結晶弾性などの測定は順調に進んでいる。当初の3年間で一番の目標である川井型装置での発生圧力の向上が目論見通り進まず苦慮していたが、本年度になって、一気に10GPa以上の向上である109GPa発生を確認し、遅れを相当挽回したと考えている。
非弾性X線散乱法により不透明試料の結晶弾性が精度よく決定できることが確認できたので、ブリリュアン測定では不可能な金属試料の結晶弾性測定も実施していきたい。地球の核は金属鉄でできているので、金属試料の測定は固体地球科学においても重要である。一方、今回の測定はアナログ物質の測定である。真の目標は、D”層の温度圧力条件下(~3000 K,~120 GPa)でのMgSiO3ペロブスカイト結晶弾性のその場測定である。大変困難な課題であるが、高圧地球科学コミュニティにおける主要課題の一つとして取り組んでいく。
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