研究課題
有機物を正確に分析するため,エポキシ樹脂を使わない方法の確立を目指した.各種の柔軟な金属を試行した結果,金が最も適切であることが判明した.金包埋の手法により,新たに10個の南極雪微隕石試料の観察・分析をおこなった.その結果,従来観察されたものに比し結晶度の低い鉄に富む層状ケイ酸塩であることが明らかとなった.それらはオリジナルには非晶質ケイ酸塩であり,低温・少量の水との共存状態において,選択的に変質を被ったものと解釈される.これと共存する有機物は比較的酸素,窒素に富み,炭素の濃縮がおこっていない.また,C=O結合が特徴的に観察される.本年度研究の結果,原始惑星系円盤に存在した小天体における無機物と有機物の変質作用の進化の全貌が明らかとなった.もっとも始原的物質として,鉄に富む非晶質ケイ酸塩とMgに富むpyroxene, olivine,Niを含むpyrrohtite,C=O結合を特徴的に持つCHON有機物,C-N三重結合を含む芳香族有機物が氷とともに共存していたと考えられる.氷がわずかに融解し,非晶質ケイ酸塩が層状ケイ酸塩に変化,硫化物からイオウがわずかに流出,それらが有機物と反応し,イオウを含む有機物に変化する.この条件は氷と水が共存するゼロ度である.その繰返しあるいは継続することにより,Mgに富むpyroxeneやolivineが反応に関与し,層状ケイ酸塩の組成が Mg に富むようになってくる.同時に炭酸塩や磁鉄鉱が形成され,有機物のC=C結合が顕著になる.すなわち,有機物の重合化が進行する.従来の室内実験や地球における同様の化学反応の知識から考え,これらの条件もゼロ度に近いと考えられる.この反応が最大に進行すると,硫化物のNiが増加し,ケイ酸塩はMgに富み,ついにpyroxeneが消滅する.また,有機物はN, Oが減少し,Cの割合が増大する.
2: おおむね順調に進展している
当初に設定した,太陽系初期における無機-有機相互作用による有機物進化の全貌は,今年度の研究によりほぼ完成した.また,本研究を進めるにあたり,極微小の有機物の化学・同位体分析と,同じく極微小無機物の化学的特徴を分析する手法が確立でき,“はやぶさ2”による小惑星からのリターンサンプルの分析をおこなう手法ならびにそのチームが確立できた.この意味において,本研究は当初目的を超える成果を挙げたと言える.
引き続き,手元にある試料の分析を進め,原始惑星系円盤における無機-有機共進化の全貌の解明を進める,とりわけ,これまでに明らかになった化学変化と同位体組成変化の関係を明らかにする.
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