研究課題/領域番号 |
22224012
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
兒玉 了祐 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80211902)
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研究分担者 |
荒河 一渡 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30294367)
佐野 智一 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30314371)
尾崎 典雅 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70432515)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 高エネルギー密度 / パワーレーザー / 高圧物性 / 新物質材料 / 準安定相 |
研究概要 |
高エネルギー密度新物質の準安定相凍結機構を明らかにし、安定な高エネルギー密度ダイヤモンド生成の可能性を探索することを最終目標とし以下の成果が得られた。 [高密度ダイヤモンド]:テラパスカル以上のレーザー衝撃波で圧縮した炭素を可視計測とX線散乱計測でその場観察を行い、液体金属炭素の存在を初めて明らかにした。強固な共有結合に起因して、融点を超える高圧高温下においてもイオン相関が強い液体金属となっていることがわかった。これは第一原理計算と極めてよい一致を示した。;非平衡圧縮で成功している数10ギガパスカル領域の高圧相凍結機構がサブテラパスカルまで拡張可能かどうかを実証するため、SiCをはじめとした高圧相回収実験を初めて試みた。回収された試料をX線構造解析で初期状態では確認できなかった回折ピークの検出に成功した。 [金属シリコン相凍結評価]:単結晶シリコンの任意結晶面に対してフェムト秒レーザーを照射し、照射部分の結晶構造をX線回折や透過電子顕微鏡で観察した。高圧相の構造はナノメートルオーダーのグレインサイズで存在し、高密度の積層欠陥に囲まれて存在することがわかった。;さらに新たにX線自由電子レーザーを用いて非平衡圧縮ダイナミックスの超高速X線構造解析を行えるようにした。単結晶シリコンのみならず多結晶シリコンのフェムト秒時間分解ポンププローブX線散乱計測を行うことに成功した。レーザー照射後励起された電子―イオンの非平衡状態が平衡に至る過程が直接診断された。 [その場診断]:X線自由電子レーザーおよびそれと同期したテラワット級フェムト秒レーザーを利用し高圧シリコンの圧縮・開放過程下での構造変化をフェムト秒の時間分解で観測することに成功した。23年度開発した周波数領域干渉計測を利用したフェムト秒時間分解光計測による状態量の同定を行い高圧相凍結機構を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
25年度までに計画していた以下の項目は平成22年度‐平成24年度にかけて全て実施できた: [高エネルギー密度物質生成実験のための設備整備・実験及び解析](H22); [高エネルギー密度ダイヤモンド生成](H23-H24:多様な圧縮法により固体状態で1テラパスカルを超える状態を実現し高エネルギー密度ダイヤモンド(BC8)や液体金属炭素を生成できた。;[金属シリコン相凍結評価] (H23-H24:金属シリコン(高圧相)の凍結機構を解明するために、多様なハイブリッド圧縮法で圧縮したシリコンの物性を調べ、残存している結晶構造、結晶欠陥、電気的特性から、凍結機構を考察できた。 さらにX線自由電子レーザー施設にパワーレーザーを整備し、非平衡圧縮過程のその場観察ができる実験環境が整った。当初計画に無かったこのような設備により従来の放射光マイクロビームでも困難であったレーザー非平衡圧縮のX線構造解析を行える環境ができた。その結果、当初計画以上に非平衡圧縮ダイナミックスのその場診断による解析が進んだ。高圧シリコン凍結を実現している単結晶シリコンに対して、フェムト秒レーザー照射後励起された電子−イオンの非平衡状態が平衡に至る過程を直接診断できた。さらに多結晶におけるレーザー動的圧縮下での特異な振る舞いも観測され始めており非平衡圧縮の物理の詳細が予定以上に進んできている。 また、当研究計画で培われた種々の圧縮技術や計測技術を用いることで、新たな物質研究の可能性も見いだされはじめた。地殻を構成する主要鉱物であるフォルステライトは、数10 GPaの領域で溶融するが、これをさらに圧縮した場合、200-400 GPaの領域で圧力の増加に伴い体積が増大する可能性が初めて実験的に示唆された。このことは、本研究が極限環境下の化学反応の探索にも展開できる可能を示しており、当初予定した以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は24年度まで、ほぼ予定通りもしくはそれ以上の進展があり、25年度以降も予定通り実施する。 これまで開発してきたハイブリッド圧縮法に加えパルス整形されたレーザーパルスによるランプ圧縮法も含めた多様な圧縮法により固体状態でテラパスカルを超える超高圧状態を炭素で実現し回収する。特に25年度以降は回収試料の詳細な分析により高エネルギー密度ダイヤモンド準安定相の可能性を探る。また24年度までに開発されたレーザー電子ビーム透過顕微システムをそれまで構築したダイナミック診断システムに付加する。予定通りもしくはそれより早期にその場診断による超高圧下での相転移ダイナミックス診断、及び準安定相凍結金属シリコン試料分析の総合的な解析が可能となり、高エネルギー密度ダイヤモンドを始めとした高エネルギー密度物質生成及び準安定相凍結機構を明らかにできる見込みである。 さらに新たに利用が可能となったX線自由電子レーザーおよびそれと同期したTW級レーザーを利用し高圧シリコンの圧縮・圧力開放および冷却過程下での構造変化をフェムト秒の時間分解で観測する。同時に周波数領域干渉計測を利用したフェムト秒時間分解光計測による状態量の同時測定を行い高圧相凍結機構を明らかにする。さらにレーザー動的圧縮による多結晶微細化し、さらに結晶構造が変化していく様子を観測する。 また、当研究計画で培われた種々の圧縮技術や計測技術を様々な物質に適用することで、新たな物質研究の可能性探る。特に化合物の超高圧縮による新化合物の可能性など超高圧下での化学反応と新物質の大気圧下への取り出しの可能性を探る。これにより単純な物質から複雑な化合物まで幅広い種類の高エネルギー密度新物質の生成と凍結の可能性を探る。 これらにより我が国独自の新学術として幅広くテラパスカル領域の科学の開拓を目指した活動を開始する。
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