研究概要 |
さまざまな原子ワイヤーをカーボンナノチューブ内部に高収率で合成するためには、不純物を含まない高純度かつ高品質なカーボンナノチューブを用いることが重要となる。このため、平成22年度では、はじめに高品質なカーボンナノチューブの合成条件の確立に加えて、水素プラズマ処理をはじめとする不純物の除去法を開発した。これによって、アモルファスカーボン等の不純物をほぼ完全に取り除いたカーボンナノチューブを得ることに成功した。さらに、この高純度、高品質カーボンナノチューブを用いて、希土類金属、種々の金属塩、芳香族分子をなどの幅広い物質について、直径が1原子から数原子程度の太さのワイヤーを創成することに成功した。特に、AgI原子ワイヤーについては、直径の小さなナノチューブ中では、1原子列の原子ワイヤーではAgとIが交互に並んだバルク相には全く対応しない構造が実現し、ナノチューブの直径が太くなるについてバルク相と同じ構造をもつワイヤーが出現することが分かった。このバルク相と同じ構造を持つワイヤーについて構造を詳しく調べた結果、α,β,γ相という3つの異なるバルク相でも、通常では147℃以上で安定となるα相がカーボンナノチューブ内部では室温で実現していることが分かった。α相では、Agが結晶格子内を自由に移動する"超イオン伝導体"として知られており、これはAgを高速に輸送できる超イオン伝導ナノワイヤーが実現した可能性がある。また、希土類のEu原子ワイヤーについては、HAADF-STEM観察を行い、極めて明瞭に個々の原子を可視化することに成功した。これを用いることで、ナノワイヤー中ではEu原子が大きく運動しており、構造揺らぎが極めて大きな系であることが明らかになった。
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