研究課題/領域番号 |
22225001
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
篠原 久典 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50132725)
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研究分担者 |
北浦 良 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50394903)
宮田 耕充 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 助教 (80547555)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / ナノワイヤ / 金属内包フラーレン / ピーポッド / HRTEM / 電子物性 |
研究概要 |
カーボンナノチューブ内部で物質を反応させる、つまりカーボンナノチューブをナノリアクター本研究で新たに創製した新規ピーポットを用いることで、これまでに、ダイヤモンドナノワイヤ、微小径単層窒化ホウ素ナノチューブ、微小幅グラフェンナノリボン、超微小径カーボンナノチューブ、1本鎖ポリチオフェン、などの低次元ナノ物質を新たに生み出すことに成功した。これらの物質は、通常の合成法(有機合成的手法、CVD法、レーザー蒸発法)では実現が極めて困難であるが、ナノチューブナノリアクターを用いることで、短時間で容易に合成できることが明らかとなった。 さらに我々は、コロネンを内包したピーポットを経由することで、太さが1 nm以下のグラフェンナノリボンを選択的に合成することに成功した。創製に成功した窒化ホウ素ナノチューブは直径0.7 nmの絶縁体ナノチューブである。サブナノメートルの金属および半導体カーボンナノチューブは比較的容易に合成できるのに対して、絶縁体ナノチューブの報告例はこれまでに無かった。アンモニアボランを内包したナノピーポットを経由することで、微小径窒化ホウ素ナノチューブを世界に先駆けて合成することに成功した。絶縁体の微小径チューブは、可視光に透明なナノサイズの試験管として、光を用いたナノ空間での現象の追跡に最適な物質であり、この材料がもたらすインパクトは極めて大きい。 以上の例からわかるように、ピーポットを経由することによるカーボンナノチューブのナノリアクター応用は、新規かつ重要な低次元ナノ物質を生み出す極めて有用な手段となる。本手法で初めて達成されたナノ物質も多数あり、これら新規物質群を中心とした新たなサイエンスを展開する礎が築くことができたことが、本研究の成果として極めて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、新規ピーポットとして、コロネン、ペリレン誘導体を始め数種の多環芳香族内包ピーポット、数種の典型元素を含む分子を内包したピーポットの創製を目指した。特に、典型元素はYb, Eu等の希土類金属、アルカリ土類金属(Rb, Cs)、アルカリ金属(Ca,Sr,Ba)、を内包したナノワイヤー内包ピーポットの創製に注目していた。ところが、これらの予定されたピーポッドの合成に成功した直後に、アメリカのスタンフォード大学のグループ(Dr.Jeremy Dahlおよび Dr.Bob Carlson)から新規ピーポッド合成の共同研究のオファーがあった。それは、カーボンナノチューブ(CNT)内部でのダイヤモンドナノワイヤの創製である。スタンフォード大学のグループはダイヤモンドイド(diamondoids)の創製を世界に先掛けて成功した研究グループである。共同研究は、ダイヤモンドイドをCNTに内包させたピーポッドを高温熱処をすることで、CNT内部にダイヤモンドのナノワイヤを合成するというものであった。 この予定外のピーポッド合成と、その後のCNT内部でのダイヤモンドナノワイヤの創製と評価は非常にうまく進展して、名古屋大学とスタンフォード大学の共同研究グループは、世界に先掛けてダイヤモンドナノワイヤの合成に成功した。これらの研究結果は ACS Nano誌とAngew.Chem.誌に相次いで発表され、世界中から注目を浴びている。特に、Angew.Chem.誌ではその表紙を飾った。 以上の理由により、H24年度の研究は、当初の計画以上の進展をしている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でピーポットの収率(内包率)と、内包物-カーボンナノチューブの相互作用の強さに明確な関係があることが明らかとなった。さらに、高収率を達成するには、内包させたい分子の蒸気圧が十分に低温で確保される必要のあることも明らかとなった。 本年度は、上記を指導原理として、高収率で内包可能な原子・分子をリストアップし、順次ピーポットを合成して行きたい。また、球面収差を補正した透過型電子顕微鏡を用いた構造解析によって、有機分子を内包したピーポットについても、原子分解能での観察ができることが明らかとなりつつある。 本年度は、これまでに行なってきた高分解能観察のみならず、暗視野法の一つであるHAADF-STEM法の適用可能性も検討する。本手法では、像取得だけではなく、電子エネルギー損失分光を用いた電子状態解析も併せて行うことができるため、ピーポットの構造と電子状態について新たな知見を与えてくれる可能性があると考えている。 また、ピーポットを経由したカーボンナノチューブナノリアクターの研究では、昨年度において多環芳香族分子を内包したピーポットを用いることで、幅が1 nm以下のグラフェンナノリボンを作り出すことに成功した。さらに、グラフェンナノリボンがカーボンナノチューブ内部でらせん構造を取りながら融合することで、構造選択的にカーボンナノチューブが生成することも明らかとした。 本年度は、さらに多種多様な有機分子を含んだピーポットを対象に同様の手法を適用し、カーボンナノチューブナノリアクターの可能性(新奇物質創製、特異な選択性)を詳細に検討して行きたいと考えている。既に、アダマンタン誘導体を内包したピーポットにおいて、カーボンナノチューブ内部でのダイヤモンドナノワイヤーの生成を示唆する結果を得ており、今後の発展が大いに期待できると考えている。
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