研究課題/領域番号 |
22225002
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
岡本 裕巳 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (20185482)
|
研究分担者 |
成島 哲也 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 助教 (50447314)
|
研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
|
キーワード | ナノ材料 / 走査プローブ顕微鏡 / 近接場 / プラズモン / 金属ナノ構造 / 電子線描画 / 励起状態相互作用 |
研究概要 |
本研究では,電子線(以下EB)リソグラフィー法を基礎に様々な金属ナノ構造,例えば円形ディスクを設計された形状に配列した構造体を作成し,近接場光学像の測定と解析を通じて,光電場の時空間構造とそれを決めるプラズモン間の相互作用を解明することを第一の目的としている。本年度はまず,ナノディスクの配列構造試料の分光特性と近接場光学イメージングを継続して進めた。試料作成法はこれまでに精細性,均一性を向上させてきたが,分光測定の結果,詳細な解析を進めるにはまだ条件の改善の余地があることが判明し,その検討を進めた結果,試料構造と分光情報の信頼性が大きく向上した。近接場超高速測定については,最短で15fsを切る時間幅の近接場光を実現していたが,更にシステムの安定性・堅牢性を改善し,EB法で作成したロッド状の金ナノ構造試料の計測を進めた。アスペクト比の大きな金ナノロッドでは励起位置によりプラズモンの位相緩和挙動が異なることが明らかになるとともに,局所光励起後の励起波束の伝搬の効果の片鱗(時間的なプラズモン波の変化)を実時空間で観測することが可能となってきた。これはプラズモン波の時空間制御への展開のための基礎原理と位置付けられる。近接場円二色性測定では,二つのキラリティのない部分構造が会合してキラリティを獲得するに伴い,局所的な光学活性が伸長する状況を観測し,部分構造の間の電磁気学的な遠隔相互作用が局所的な光学活性の起源であることを見出した。これはプラズモン間の相互作用を新たな形で解析する研究へと展開するものとみなされる。更に,キラリティを持たない(従って通常の計測では光学活性のない)ナノ構造体でも,局所的に円二色性が得られることを示した。これは,光学活性にかかわる教科書の記述に変更を迫るものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,設計した金属ナノドット配列構造等について,広い波長域でプラズモンの空間特性を解明すること,超高速時空間特性を解明制御すること等を目標としており,そのための実験装置は既に整備され,実験研究も進んでいる。金属ナノ構造試料はルーチン的に作成可能となっており,精細度と精度が向上した。超高速近接場測定ではプラズモン波束の伝搬の片鱗が時空間分解測定で実測された。更に,金属ナノ構造における局所的な円二色性の計測という新たな手法で,プラズモン間の相互作用を研究する新たな展開の可能性を開いた。キラリティのないナノ構造体において,局所的な光学活性に関する極めてユニークな成果もあがりつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
ディスクとその集合構造については,試料作製の条件出しが必ずしも完全ではなく,分光データの信頼性を再検討する必要のあることが判明したが,問題点は明確になり,改善へ向けた方針もはっきりしているので,今後も様々な条件のナノドット配列試料を作成し,広い波長域での近接場測定を引き続き進める。超高速測定については装置の特性改善と,モデル系の測定で先鋭的な成果が出つつあり,これを更に推し進めるとともに,対象とする系を拡大していく。位相制御を最短パルスを与える条件から意図的にずらすことで,光電場を時空間的に制御する可能性について,実験的に検討を進める。近接場円二色性測定について,更に高感度化の努力を継続する。また複数のナノ構造体が集合することで現れるキラリティ,消失するキラリティについて,マクロ及び局所的な円偏光二色性の視点から研究を進め,プラズモン間の相互作用と光電場の空間分布に関する新たな研究展開を図る。これらのナノ構造体に様々な光物性・光化学特性を持つ物質を共存させ,それらの物性制御や光化学反応の制御を試みる。
|