研究課題/領域番号 |
22226001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新田 淳作 東北大学, 大学院・工学研究科, 教授 (00393778)
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研究分担者 |
手束 展規 東北大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (40323076)
好田 誠 東北大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (00420000)
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キーワード | 相対論的効果 / スピン軌道相互作用 / スピン注入・生成 / スピン検出 / スピントロニクス |
研究概要 |
スピン軌道相互作用は、電子が電場中を高速に運動することにより、電場が磁場に変換される相対論的な効果である。この変換された磁場を用いることにより電子スピンを生成・制御・検出する要素技術を確立し、新しい原理で動作するスピンデバイスを創製することを目的として研究を行っている。スピン生成に関しては、垂直磁気異方性を有するFePt/MgOを半導体GaAs上にエピタキシャル成長できることを確認した。FePt/MgO/GaAs構造を用いた三端子ハンル測定はスピン注入を示唆する結果を得たが、より確実なスピン注入を確認するため四端子非局所ハンル測定、光学的スピン検出を行う。スピン軌道相互作用は電場によるスピン制御を可能とするが一方、スピン緩和の原因となる。電場によって制御可能なRashbaスピン軌道相互作用に加えて、Dresselhausスピン軌道相互作用の強さを等しくすることにより、永久スピン旋回状態と呼ばれるスピンは散乱の影響を受けることなく安定な回転運動が可能となる。InGaAs量子井戸の幅を小さくすることによりDresselhausスピン軌道相互作用を増大することにより、ゲート電圧によって制御可能な永久スピン旋回状態を示唆する結果を得た。また、このゲート電圧によって変調可能な永久スピン旋回状態と面直スピン注入を用いればスピン相補インバータが可能となることを理論的に提案した。 これまでの研究によりInGaAs系二次元電子ガスをリング列に微細加工したスピン干渉デバイスを作製し、スピン干渉がゲート電場で変調できることを確認している。これはスピンの動的な位相がゲート電場により制御可能であることを示した実験であるが、スピンの幾何学的位相の検出は困難であった。スピン干渉デバイスのリング径を系統的に変化させた試料を用いる事により、スピン干渉効果を詳細に解析することによりスピンの幾何学的位相を観測することに成功した。スピンの幾何学的位相は、擾乱に対して安定であり永久スピン流の生成など散逸を伴わないスピン情報の保持に重要な役割を果たすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災の影響で磁性体薄膜作製用のスパッタ装置、素子作製用プロセス装置、低温装置が故障し使用できない時期があったが、国内外の共同研究機関の協力により学生・スタッフを受け入れていただき実験の遅れを最小限にとどめることができた。昨年度の素子の作製を完了していた、Dresselhausスピン軌道相互作用の大きな量子井戸を測定することにより、スピン永久旋回状態を示唆する結果を得られたのは大きな成果であると考える。またスピン干渉素子を詳細に測定・解析することによりスピンの幾何学的位相を観測することに成功し、物理学の重要な進展を伝える米国物理学会のオンライン雑誌「Physics」にその成果が紹介された。以上より、研究は計画通りに順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
半導体上の磁性体薄膜作製用のスパッタ装置が震災のため故障・移設等により使用できない状況にあったがようやく使用可能な状態になり、高品質な磁性薄膜を用いた半導体中へのスピン注入実験をより強力に推進する。また、スピン偏極率の大きなホイスラー磁性合金を用いたスピン注入を試みる。ゲートによって制御可能な永久スピン旋回状態の実現をより確実なものとするため、細線構造を作製し、面内磁場の方向依存性からRashba/Dresselhausスピン軌道相互作用の比を求める実験を行い、これらのスピン軌道相互作用の値が確かに等しくなっていることを確認する。また、スピン幾何学的位相の電場・磁場制御を試みることにより、その制御範囲・制御手段の確立を図る。
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