研究課題/領域番号 |
22226001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新田 淳作 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00393778)
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研究分担者 |
手束 展規 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40323076)
好田 誠 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00420000)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / スピン生成 / スピン制御 / スピン検出 |
研究概要 |
1.磁場、磁性体を一切使わないスピンフィルターを実現 Stern-Gerlach効果は磁場の空間勾配がある中をスピンが通過する際、スピンの向きにより分離される現象である。我々はこの磁場勾配をスピン軌道相互作用の作る有効磁場で置き換えることによりナノスケールの半導体中で生じることを理論的に示してきた。量子ポイントコンタクト近傍で生じるスピン軌道相互作用の空間勾配によりStern-Gerlach効果に起因したスピン生成が可能であることを実験的に実証した。スピン軌道相互作用の強い量子ポイントコンタクトを通過することにより生じるスピン偏極率は70%以上となることがショット雑音測定から確認した。これは、磁場や磁性体を一切用いず半導体のみでスピン偏極生じることを示した実験であり半導体スピントロニクスの大きなブレークスルーとなる。また量子力学の基本概念であるスピンの存在を明らかにした20世紀最大の実験の1つであるStern-Gerlachスピン分離実験をナノスケール半導体トランジスタ構造で実現した。 2.ゲート電界により制御された永久スピン旋回状態の実現 スピン軌道相互作用は電子スピンに有効磁場として作用するがこの有効磁場の向きは電子の運動する方向に依存するため、散乱とともに有効磁場の向きが変化しスピンの向きが乱れてしまうスピン緩和が大きな問題点であった。スピンを情報の担体として用いるにはこのスピン緩和の抑制が極めて重要である。Dresselhausスピン軌道相互作用の強いInGaAs二次元電子ガス構造を設計し、ゲート電界によりRashbaスピン軌道相互作用を変調することにより、永久スピン旋回状態をゲート電界によりオン-オフさせることに成功した。この電界制御は、長距離スピンコヒーレント輸送を可能にするだけでなくスピン相補トランジスタ等のスピンデバイスのマイルストーンとなる成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子スピンはこれまで主に磁場や磁性体により生成・制御されてきた。電子スピンの存在する場所に比べて磁場の発生する空間は遙かに大きく、磁場発生に伴う多くのエネルギーが無駄になっていた。電子スピンを電界によって生成・制御・検出することはスピントロニクスの極めて重要な要素技術となる。これまでの研究期間に(1)スピン生成;Stern-Gelachスピンフィルターの実現、(2)スピン制御;スピン永久旋回状態の電気制御、(3)スピン検出;スピン幾何学的位相の観測、を実現・達成した。これは、磁場を用いる必要のないスピン軌道相互作用を用いた電界制御によるスピントロニクスの重要な要素技術の確立に相当する。また、スピン要素技術の統合に向けて面直磁気異方性を有す磁性体FePt, FePdの半導体上GaAs, InPへのエピタキシャル成長を確認した。また磁性半導体GaMnAsからGaAsへのエサキトンネル構造を用いたスピン注入による核スピンのスピン偏極を観測した。この結果は、磁場を用いることなくスピン緩和時間の極めて長い核スピンを偏極することが可能となり、メモリーとして応用することが期待できる。 当初計画になかったものであるがNTTと共同研究で弾性表面波が運ぶ電子スピンへのスピン軌道相互作用の及ぼす効果について研究を行っている。電子スピンを弾性表面波によって100ミクロンメートル以上にわたって伝搬させるとともに、磁場を一切用いない「移動スピン共鳴」と名付けた新現象が可能であることを発見した。これにより電子スピンの向きを任意に制御することが可能となり、スピントロニクスや量子コンピュータの実現に繋がる。 これらの研究成果は、世界のスピントロニクス研究をリードするものでありその波及効果も大きい。以上の達成度を総括すると当初の目標を超える研究の進展があり、予定以上の成果が見込まれると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、スピン軌道相互作用を用いたスピン生成・制御・検出の基本的要素技術を確立してきた。今後は、スピンデバイスの創製に向けた研究を加速する。 ゼーマン効果と2つのスピン軌道相互作用の作る有効磁場(Rashbaスピン軌道相互作用の強さαとDresselhausスピン軌道相互作用β)の競合により、半導体細線構造を作ることによりα/βの比がフィッティングパラメタを一切用いることなく実験的に求められることを理論的に示してきた。本研究期間中に、この理論予測を実験的に検証するとともに、永久スピン旋回状態(PSH)が生じると[1,-1,0]方向の細線では異方性が消失することを見いだした。この手法を適応することにより、電界制御によるPSH状態と逆永久スピン旋回状態(i-PSH)の転移を実現する。PSHとi-PHS状態の電界制御はスピン相補トランジスタの実現のみならず、スピン緩和の抑制されたスピントロニクスデバイスの基本となる。この電界制御に向けたヘテロ構造の最適化を図る。 ゲート電界によって制御可能な永久スピン旋回状態を用いて、相補的スピントランジスタを提案した。本スピン相補トランジスタを実現するには面直スピンの注入が重要で有り、引き続きFePt/MgO/半導体を用いた面直スピン注入の実験を行う。また、金属/半導体界面のスピン軌道相互作用の起源の解明、スピン軌道相互作用の強いPt等の非磁性金属からのスピン注入、スピン検出を試みる。 本研究期間中にスピン軌道相互作用の強い量子ポイントコンタクトを用いて、磁場や磁性体を一切使うことなく70%以上のスピン偏極したキャリアを生成することに成功した。今後は、スピン生成+検出デバイスの試作検討を行う。
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