研究概要 |
(Ga,Mn)As薄膜の光誘起才差運動の研究では2つの新知見が得られた。第一に、磁化ベクトルが面内に配向した薄膜の示す磁気光学効果が、ベクトルの方位に依存して変化する屈折率すなわち磁気複屈折による起因することを世界に先駆けて明らかにすることができた。この結論は、磁気特性がほぼ同じ一連の試料について、反射光偏光面の回転角の(Ga,Mn)As層厚依存性を注意深く調べた実験により得られた。第二に、(Ga,Mn)Asにおける磁化ダイナミクスとひずみの関係を明らかにすることができた。具体的には、試料をピエゾアクチュエータ(PA)により伸長・収縮させると、才差運動の振動周波数が増加・減少することを見出した。ひずみ1%に対する有効磁場の変化量は0.26Teslaであり、この結果は、弾性波励起による磁化ベクトル変調実験の土台となる。一方、室温における磁化の光制御とスピン光メモリーへの展開については、室温光制御に適した素材に関する新知見が1点、光導波路と磁性体金属薄膜の光結合に関する新知見が1点得られた。まず、前者に関して、昨年度導入したDCマグネトロンスパッタによりシリコン基板上に作製したCo/Pd多層膜において、磁化の光誘起才差運動が、室温で、しかも、従来の実験例より二桁低い光強度でおこることを見出した。界面磁性が関連した現象と推測している。後者の光結合に関する背景として、磁気光学効果を介して光導波路内の偏光を制御できれば光回路にメモリー機能を付加できると期待され、光入射角度と磁気光学効果との関連を精密に知る必要がある。本年度は、溶融石英ガラスプリズム上にGdFe薄膜を直接堆積した試料についてこのことを調べた結果、入射角度78°、すなわちプリュースター条件近傍で磁気光学効果が増強されること、さらに、水平に近い入射角(84°)でも比較的大きな磁気光学信号が得られることが明らかとなった。
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