研究概要 |
本プロジェクトでは,これまでに開発を進めてきた光励起STM技術を基盤として,ナノスケールでスピンの計測・可視化を可能にする技術の開発を展開するが,本年度は,そのための基盤となるシステムの開発,予備実験など,基本装置・技術の準備を進めた。主な内容の詳細は,以下の通りである。 (1)これまで、磁場を印加し極低温で動作するSTMは存在したが、あわせて超短パルスレーザーを照射し変調した測定が可能なシステムはなかった。そこで、極低温において磁場を印加した状態で超短パルスレーザーを用いた時間分解測定を行うことが可能な走査トンネル顕微鏡(STM)を検討し発注した。あわせて、信号強度をあげるため励起強度を高める仕組みの開発を進めた。 (2)時間分解測定では、Fe/GaAsを対象とした計測を行い、単一Fe原子により形成されたギャップ内準位を介した電子-ホール再結合のダイナミックスの測定に成功し、Co/GaAsにより得られた結果との比較検討を行った。 (3)時間分解信号の光強度依存性を解析することで、半導体を試料とした時間分解STM信号を解釈するために考案した物理モデルが正しいことを確認した。 (4)また、マルチプローブSTMでは制御システムの改良を進め、原子分解能を達成するに充分な精度を持つ制御回路を実現するとともに、ノイズレベルを押さえたトンネル電流検出回路を開発した。 (5)一方、スピン検出の準備として、Co/Cuを試料としてスピン偏極計測を行うことに成功し、あわせて、磁性探針の作製条件、測定条件などの検討を行った。 (6)さらに、安定したスピン計測を行う為にW基板の処理が可能な仕組みを検討・設計した。
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