研究課題/領域番号 |
22226003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
重川 秀実 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20134489)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / スピンダイナミックス / 可視化 / 時間分解計測 / 超高速分光 / ナノ科学 |
研究概要 |
AlGaAs/GaAs量子井戸(井戸幅6nm、8nm)構造を作製し、個々の量子井戸に対して、(サブ)ピコ秒領域でスピン寿命を測定することに成功した。これまでは、試料を作り込むことで単一量子井戸やドットを対象とした時間分解測定が行われてきたが、本手法により、量子ダイナミックスを、普通に成長させた構造を持つ試料を対象として、単一の量子井戸や量子ドットレベルで解析することが可能になった。即ち、本手法では、二つや三つの量子井戸や量子ドットからなる構造での相関なども、試料を選ばず、また、測りたい場所で、構造を確認しながらの計測が可能となる。 更に、量子井戸(6nm)にポンプ光(円偏光)を照射してスピンの向きを揃えた後、ポンプ光-プローブ光間の遅延時間を(例えば、1psとか2psに)固定してSTM探針を走査し、スピン・時間分解測定を行うことで、1nm程度の空間分解能でスピン寿命を可視化できることを示すことに成功した。空間分解能は探針や試料の状態などにより制限されるもので、整備することで、より高い分解能を得る事が可能である。 これら結果に加えて、光制御したスピンの歳差運動の時間分解STM測定にも成功し、g因子の局所評価が可能になった。また、レーザーの繰り返し周波数をラーモア振動数に合わせることでスピン共鳴励起を起こしSTMで測定できることも確認し、スピン強度の磁場依存性からスピン寿命を解析することに成功した。 STMによる超高速スピンダイナミックスの計測・可視化は、長く求められながら多くの困難によりかなわなかったが、本研究により、ナノスケールの(デバイス)構造を対象として、スピンのダイナミックスを実空間で可視化することが初めて可能になった。 成果は、Nature Nanotechnologyに投稿し受理された(現在、掲載版調整中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、新しい変調方式を開発・導入することで、超高速スピンダイナミックスの測定に成功した。IBMで電気的なポンププローブ法が行われているが、1ナノ秒程度が限界で、また、本手法のような遍歴電子の計測は無理である。最近、テラヘルツ励起を用いた報告があるが、スピンの測定はできない。現在、STMを用いて、ピコ秒、サブピコ秒領域のスピンダイナミックスの測定を行えるのは、本手法のみである。 続いてスピン寿命の温度依存性測定を行い、STMで測定される領域においてもDP機構が成り立つことを確認した。更に、単一AlGaAs/GaAs量子井戸(井戸幅6nm、8nm)中でのスピン寿命測定に成功。遅延時間を(例えば、1ps、2psなどと)固定して量子井戸(6nm)を横切ってスピン寿命測定を行えることを示し、1nm程度の空間分解能を得た。異なる遅延時間の結果を表示することで、ナノ(デバイス)構造でのスピンダイナミックスを画像化し、局所構原子造と対応させて解析することが可能になった。 これら結果に加えて、光制御したスピン歳差運動の時間分解STM測定にも成功し、g因子の局所評価が可能になった。また、レーザーの繰り返し周波数をラーモア振動数に合わせて共鳴励起を起こし、信号の磁場依存性からスピン寿命を解析することに成功した。その他、Mn-蒸着/GaAs(110)表面構造を作製し、スピン寿命のMn蒸着量依存性をSTM像と比較しながら測定することに成功したが、局所構造と対応させてダイナミックスを解析する例として、表面の効果を検出した初めての結果である。 以上、ナノスケールのデバイス構造を含めた超高速スピンダイナミックスの計測及び可視化に関する目的を達成し、更に、スピンの歳差運動測定や共鳴励起による制御、表面効果の測定にも成功した。これら成果は、Nature Nanotechnologyに投稿し、受理された(現在、掲載版について調整中)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果を基に、一般化と高度化を図ることになる。 (ナノ)デバイス開発の為の基礎研究として、(1)高温超伝導材料やトポロジカル絶縁体/超伝導体等、現在、重要課題となっている物理現象の局所解析への本システムの展開、(2)高周波検出を利用したスピン歳差運動の実空間測定、などを試みる。(2)は、現在までの達成度の項目に記載したスピン共鳴励起を積極的に利用し、例えばESR(励起を含む電子スピン共鳴)をSTMで行うものである。 ただし、(3)様々な系に展開するには、励起波長を自由に調整できる事が必要である。現有のレーザーではパワーが足りず波長の変換は難しい。従って、高強度レーザーの導入が必要不可欠である。また、(4)ホットエレクトロンやフォノンを含むフェムト秒領域の超高速現象の解析には、10fsパルス幅程度のレーザーが必要となるが、微弱信号の検出には、同様に高強度であることが必須であり、高強度・極超短パルスレーザーの導入が必要不可欠となる。 また、本成果を基に(5)本装置・手法の更なる高度化を図り、well-definedなナノ(デバイス)構造を作製・制御して、量子ダイナミックスを量子相関まで含めナノスケールで実空間測定するなど、『他のグループではかなわない新しい実験・研究』への更なる展開を可能にするには、多機能を持つ多探針STMを開発して本手法と融合することが最も有望な方向と考える。世界で唯一のシステムの更なる開発であり、非常に難しい技術を要するが、これまでの経験を基に準備は十分である。現在の優位な状況を保ち推進するには、可能な限り早い取り組みが必要である。 以上の方針を達成するため、上記(1)、(2)を展開することと併せて、(3)-(5)を可能にするため、特別推進への応募を行っている。
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