研究課題/領域番号 |
22226010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中北 英一 京都大学, 防災研究所, 教授 (70183506)
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研究分担者 |
鈴木 賢士 山口大学, 農学部, 准教授 (30304497)
坪木 和久 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 教授 (90222140)
大石 哲 神戸大学, 学内共同利用施設等, 教授 (30252521)
川村 誠治 独立行政法人情報通信研究機構, その他部局等, 研究員 (10435795)
橋口 浩之 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (90293943)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 偏波レーダー / ビデオゾンデ / 降水量予測 / 降水量推定 / ゲリラ豪雨 |
研究概要 |
(1)同期観測実験(沖縄): 本研究の最もベースとなる偏波レーダーとビデオゾンデとの同期観測を梅雨期に40日間沖縄で実施した。移動観測手法を新たに構築したことで一つの降水システムに対する多地点同時放球を実施し、多面的な雲微物理解析を行ったことで、層状性降水システムにおいて降水粒子組成の鉛直分布に関する空間相関の高さを示した。 (2)同期観測実験(京阪神): 温帯域の都市部で発生・発達する積乱雲によってもたらされる降水現象の解明に向けて、マルチセンサー観測を京阪神都市域で7月梅雨期と8月熱雷期それぞれ14日ずつ実施した。Xバンド偏波レーダー、Kaバンド雲レーダー、ドップラーライダーを毎2分ごとにRHIスキャンで同期し、鉛直方向の雲の発生・発達に関するデータを取得し、六甲山からの寒気の吹き出し等を捉えた。 (3)雲物理過程の解明: 雲粒子ゾンデ観測と雲解像モデルのシミュレーション結果を比較することで、-40度より低い高度で氷晶の数密度が小さいことを明らかにし、モデル解像度や雲微物理モデルの差異による降水システムの再現精度を評価した。 (4)偏波レーダーによる氷粒子の量推定、そのメソ気象モデルへの同化: 粒子判別手法を用いて雲の粒子組成をみることで、予測手法への応用も期待できる積乱雲のライフステージを推定する手法を開発した。加えて、量推定精度を向上させるために、混在状態の偏波パラメータの特徴を解析し、単種のときはレーダー反射強度が大きくなりにくいことを示した。 (5)ゲリラ豪雨の早期危険性予知システムの構築: これまでに開発してきたゲリラ豪雨のタマゴの早期探知、3次元セル追跡、渦度解析による危険性予知、を一連のシステムとして構築した。行政と連携し、システムの社会実験を開始した。最後に、(1)~(5)に関して、取りまとめの方向性を皆で議論し、最終年度での補足観測を実施することを決めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に、交付申請時の予定は順調に研究を進めることができた。具体的には、沖縄観測において移動観測手法を確立し、多面的観測を実施して、京阪神観測への将来的に応用できるシステムを構築した。京阪神観測では、積乱雲の発生・発達に関するマルチセンサー観測を実施し、鉛直方向に発達する雲を捉え、寒気の吹き下ろし事例も観測できた。またこれらの観測データを基に、氷晶形成プロセスや発達中の降水粒子の組成といった雲物理過程における新たな知見を生み出し、モデル化に向けての土台を築いた。また、降水予測の高度化に向けて、降水粒子種類の組成を利用した積乱雲のライフステージ推定や、氷粒子の量推定における混在状態の推定精度向上といった偏波レーダーを活用した手法の開発も進んでいる。加えて、水管理への応用として、渦度解析によるゲリラ豪雨の早期危険性予知システムを完成させた。 第二に、交付申請時の予定を上回る成果として、次の2点を挙げる。京阪神観測において、雲の鉛直方向の発達に着目して、気流・雲・降水という一連の流れを捉える観測を実施できた。また、ゲリラ豪雨の予知システムが完成し、行政が現業化したことは極めて大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
●補足観測:解析結果を議論し合う中で、積乱雲の発達に関して、さらに時間分解能の細かな観測の必要性を感じたため、15分間隔程度の高時間分解能なビデオゾンデ・偏波レーダー同期観測を実施する。雲物理のプロセス解明、および降水予測におけるライフステージ推定において、より詳細な手法を提案できると期待できる。加えて、都市圏における積乱雲に の発生・発達に関して、水蒸気・雲・降水という一連の流れを捉える観測を引き続き実施し、事例を増やしていくだけでなく、降水予測手法開発との連携を進めていく。●降水プロセスの解明: 同期観測によって明らかになった雲物理に対する知見に関して、特に、積乱雲のライフステージおよび氷晶の形成過程の2点に着目し、さらに詳細な解析を行い、精緻化された雲微物理モデル開発への足がかりを探究する。 ●降水予測: 粒子判別を用いた雲の粒子組成からライフステージを推定し、それを用いた降水セルの発達・衰弱を考慮した降水予測手法を開発していく。また、偏波レーダーに加えてGPS可降水量のデータ同化によって、積乱雲の発生のタイミングをうまく予測する手法を開発していく。 ●水管理への応用: これまでに開発してきたゲリラ豪雨の予知システムをさらに発展させて、定量情報をどこまで示すことができるか解析する。また、アンサンブル情報を用いた流出予測・ダムや地下貯留施設の管理への応用手法を構築する。
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