研究課題/領域番号 |
22226012
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小池 淳一 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (10261588)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 銅合金 / 薄膜 / 配線 / 半導体 / 界面 / 電界促進拡散 / 対数成長則 |
研究概要 |
23年度には32nm以降の技術世代におけるLSI配線を想定して、化学気相成長(CVD)法によるバリア層形成の可能性を調査した。その過程において、Mn前駆体(ジエチルビスシクロペンタディエニルマンガン)の熱分解温度(500℃)近傍で成膜された膜は、多量の炭素を含有し、銅薄膜との密着性に乏しいことが判明した。24年度に実施した研究では、この原因について第一原理法を用いて調査した。具体的には、Mn前駆体の安定構造を計算し、前駆体分子を構成する種々の配位子を分離する際に要するエネルギーを計算した。その結果、Mn原子が分離するエネルギーより少し低いエネルギーによって、五員環に付随するエチル鎖端部のCH3の分離が可能であった。このことから、バリア層に含有された炭素は熱分解したCH3の混入であることが判明した。従って、今回用いたMn前駆体は、熱分解温度近傍で成膜することは回避すべきであり、300℃以下の温度で成膜することが適していることが明らかになった。 また、銅との密着性を向上させてマイグレーションに対する信頼性を高めるために、これまでのMn前駆体より低温で熱分解する新規な前駆体を用いた実験を行った。示差走査熱分析の結果、熱分解温度は230℃であり、この温度以上のCVD成膜によって絶縁層基板との界面にバリア層を形成し、その上に低抵抗の層を形成することができた。しかし、低抵抗層の結晶構造と組成を分析したところ、金属Mnは微量であり、殆どがMn炭化物であった。この炭化物層が銅の密着性に及ぼす影響は今後調査する必要がある。 さらに、15nm以降の技術世代を想定して、バリア層の自己形成と配線埋め込みを同時に実現できる方法にも取り組んだ。その結果、ある種の銅合金を高温でスパッタリングすることによって、リフロー埋め込みが実現可能な条件を見出し、新たなバリア・配線形成方法を提示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標は、界面反応による「組成変化」をきっかけとした、「バンド構造変化」と、それによって可能となる「電子トンネリング」と「電界形成」との相互関係を明らかにし、「電界促進拡散」の観点から、充分な拡散バリア性を有するバリア層を自己形成するための必要条件とその機構を明らかにすることであった。「電子トンネリング」と「電界形成」に関してはCabrera and Mottの理論通りの実験結果が得られ、「電界促進拡散」の程度を定量的に示すことができた。また、電子トンネリングを誘発するものは、SiO2絶縁層中の酸素欠損、構造欠陥、吸着水分であることが明らかになり、当初予想による仮説(組成変化とバンド構造変化)は妥当ではないことが判明した。このように、仮説の一部に修正はあったものの、それに代わる新たな理解が得られた。さらに、バリア層自己形成機構の根幹となる電界促進拡散の部分の妥当性が確認され、定量評価ができたことは評価に値する。また、本研究は、半導体業界の動向を的確に捉え、技術要求の変化に即応できるように、フレキシブルな研究方針を打ち立てている。具体的には、当初予定の実験方法に囚われることなく、スパッタ法から、CVD法、リフロー法と、実験方法の範囲を拡大することによって、技術的観点からもプロセス限界を超越できる方法を確立すべく挑んでいる。以上の理由から研究は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
CVD法でのバリア層形成は、24年度に新規開発した前駆体を用いて、炭素混入の低減を目指した研究ならびにMn炭化物と銅薄膜の密着性に関する研究を行い、新規前駆体を先端LSI用バリア層として用いることの妥当性を調査する。また、従来の前駆体ならびに新規前駆体を用いて低誘電率(Low-k)絶縁層に対する成膜挙動を調査し、先端配線構造に適用する際の妥当性を検討する。さらに、24年度後半に実施したリフロー法によるCu合金の埋め込みは、埋め込み機構の解明に加えて、10nm世代の配線構造への埋め込みを実現するための形成方法を調査する。
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