研究課題/領域番号 |
22227003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
遠藤 斗志也 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70152014)
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キーワード | ミトコンドリア / 酵母 / トランスロケータ / 膜透過 / 部位特異的光架橋 |
研究概要 |
1. Tom22アセンブリー過程でin vivo架橋される因子を足がかりとする,新規輸送因子の検索 ミトコンドリア外膜のトランスロケータTOM40複合体の中心因子Tom22について,部位特異的にBPAを導入して酵母細胞内で過剰発現すると,Tom22がTOM40複合体に組み込まれる前に,一過的にサイトゾル及び外膜のタンパク質と架橋産物を生ずることを見出した。サイトゾルの因子はHsp70分子シャペロンであったが,外膜の因子は2種類から成り,既知のトランスロケータ構成因子ではなかった。そこでこの架橋相手を質量スペクトル解析により同定したところ,一つは外膜の内在性膜タンパク質のポリン(Por1)であった。Por1を遺伝子破壊すると,Tom22のTOM40複合体へのアセンブリーは促進され,Tom40のアセンブリーは阻害された。また,これらのサブユニットのアセンブリーを担うTOB複合体が不安定化した。Por1はTOB複合体を介したTom22のアセンブリーを促進することが考えられる。 2. 新生ミトコンドリアタンパク質の品質管理 ミトコンドリアタンパク質のmRNAから終止コドンが失われると,できかけのタンパク質がリボソームをストールさせてしまうとともに,ミトコンドリアのトランスロケータの孔も詰まらせてしまう。これは細胞にとって致死となること,Dom34/Hbs1ができかけのタンパク質をストールしたリボソームから強制的にミトコンドリア内に吐き出させ,孔詰まりを解消させることがわかった。これまで知られていなかった「できかけのタンパク質の品質管理」が細胞の正常機能を保つ上で重要であることを示す結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標であった,Tom22のアセンブリー過程でin vivo架橋される因子を足がかりとする,新規輸送因子の検索については,酵母細胞内でTom22自身を過剰発現して,一過的な架橋を検出することで,Tom22がTOM40複合体へのアセンブリー途上に相互作用する,おそらくTom22のアセンブリー因子を同定することに成功した。同様の解析を現在チャネルタンパク質のTom40についても展開中である。これらの成果は,膜タンパク質複合体の機能時のダイナミックな構造変化や生合成時のアセンブリー因子(やシャペロン)との相互作用を検出する新しい方法論として,部位特異的光架橋法が有効であることを示すものである。 さらに予想を越えた,今後新たな展開が期待される成果も得られた。従来はmRNAが終止コドンを欠失したときに生じるノンストップタンパク質はリボソームを占有する(ストールさせる)ので,プロテアソームでノンストップタンパク質を除去することが重要と考えられていた。ところが今回,ノンストップタンパク質はサイトゾルで蓄積しても細胞増殖を阻害しないが,ミトコンドリアや小胞体においてはトランスロケータの孔を詰まらせてしまい,細胞増殖の阻害につながることを見いだした。細胞内ではこうした事態を防ぐために,プロテアソームではなく,Dom34/Hbs1がストールしたリボソームとトランスロケータのクリアランスを担うことを発見した。これは新生鎖の品質管理が細胞の機能維持に重要であること,従来のノンストップmRNAやノンストップタンパク質の除去による細胞内危機管理の意義の見直しが必要であることを示している。これは,当初予想していなかった重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本科研費の研究計画で掲げた研究の多くは,目標に向かって順調に進展しているので,今後も当初の計画通りに研究を推進する。まだ明快な見通しが立っていないのは,トランスロケータ等の関連因子のうち,膜内在性タンパク質サブユニットの構造解析である。部位特異的光架橋によるサブユニット間相互作用解析まではうまくいっているが,今後,結晶化やX線構造解析に向けて研究を展開する上では,多くの困難が予想される。ミトコンドリアはαプロテオバクテリアに近い原核生物を祖先とするオルガネラであり,発現系は大腸菌細胞が基本となる。ソースは出芽酵母以外に,好熱性子嚢菌(60°C),耐熱性酵母(45°C),シゾン(42°C),哺乳動物(ラット,ヒト)とし,見かけの分子量分布をGFP融合タンパク質を用いたGFP-FSEC 法で調べ,最適なソースとコンストラクトを検討する。発現する細胞内区画としては,サイトゾルで封入体として発現し,巻き戻りと界面活性剤またはLCP(lipidic cubic phase)への組込みを試みる他,N端にシグナルペプチダーゼ等の膜貫通配列を導入することで,内膜に組込み,その後界面活性剤で可溶化,LCPへの組込みを図る。Tom40やMdm10などのβバレル型膜タンパク質の場合は,N端に大腸菌の外膜タンパク質(OmpA)のシグナル配列を付加することで外膜に直接βバレル構造を形成させて組込みができることを確認しているので,これを界面活性剤で可溶化後,LCPへの組込みを図る。LCPによる結晶化については,通常の結晶化用ナノリッター分注システムに加えて,膜タンパク質結晶化用の分注システムが稼働中である。
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