研究課題
酵母ミトコンドリアのタンパク質の交通管制システムについて,ミトコンドリアの膜構造,脂質,レドックス状態,ERとの関係なども含めて,その働く機構を理解することをめざした。(1)ミトコンドリア機能に必須かつミトコンドリア特異的なリン脂質,カルジオリピンの合成経路は,ホスファチジン酸からCDP-DAGを合成するステップがミッシングリンクとなっていた。ERとミトコンドリアの両方で働くのではないかと言われていたCds1は,ERにのみ存在し,ミトコンドリアにはCds1以外のCDP-DAG合成酵素があることが示唆された。そこで,以前われわれが見出した,ミトコンドリア内膜トランスロケータのメンテナンス因子Tam41を酵母から精製し,Tam41がCDP-DAG合成酵素活性を持つことを直接確かめた。このことにより,カルジオリピン合成経路の全体像が完成した。(2)ERとミトコンドリアをつなぐテザリング複合体ERMESの構成因子であるMdm12とMmm1を大腸菌に発現させて精製する実験系をつくった。Mdm12-Mmm1複合体,Mdm12について結晶化に成功した。X線構造解析を実施中である。(3)ERMES複合体構成因子,ミトコンドリア内で脂質輸送に関わる可能性があるUps1/Ups2について,各々遺伝学的に相互作用する因子(各遺伝子欠失株について,合成増殖阻害を示す欠失変異株,多コピーサプレッサーとなる遺伝子)を検索し,多数の関連因子候補を得た。(4)膜間部で酸化的リフォールディングを行うTim40-Erv1システムについて,基質類似ペプチドとTim40存在下でスピンラベルしたErv1を加え,Tim40のNMRシグナルがペプチドの存在に依存して緩和することを見出した。このことはTim40-基質-Erv1三者の複合体が重要な役割を果たすことを示す。
1: 当初の計画以上に進展している
当初はタンパク質の交通を中心にミトコンドリアの生合成の分子機構を解明することをめざしていた。今回,Tam41がカルジオリピン合成経路の最後のミッシングリンクであることを発見,さらにERMES,Ups1/Ups2などについて,脂質輸送との関連に関わる新しい知見が多数得られた。このことは,ミトコンドリア生合成を理解する上で,タンパク質トランスロケータを中心としたタンパク質の交通という観点からアプローチするだけではなく,脂質の交通という観点からも斬り込むことが必要な段階に来ていることを強く示唆するものであり,予想しなかった発展である。
研究代表者が,名古屋大学から京都産業大学に異動したので,連携研究者の田村康(名古屋大学)を分担者に変更し,研究費を配分することで,京都産業大学と名古屋大学で,効率よく研究を推進したい。
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 4件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (33件) (うち招待講演 9件) 図書 (1件)
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