研究概要 |
H.23年度は、本課題の主要な研究手法である力学・熱物性解析手法のうち、とくに熱刺激法について進展があった。1)弛緩状態にある心筋細胞に局所熱パルスを加えると、一過的な収縮が生じることを発見した。このことは、Caイオン濃度が低い弛緩状態にある筋細胞が熱刺激だけで興奮収縮することを意味し、新しい興奮ルートが見出されたことになる(Oyamaら,BBRC,2011)。2)pHやイオン強度には応答せず、温度だけに応答する(カチオン性ポリマーをコートした)蛍光性ナノビーズを合成し、HeLa細胞に振りかけたところ、Endosomeに自動的に取り込まれ、しかも微小管上を輸送されることが見出された。そこで熱パルスを与えたところ、温度上昇に伴う運動速度の上昇がみられた。我々はこのビーズを"歩くナノ温度計"となづけた(Oyamaら,Lab on a Chip,印刷中)。一方筋収縮系の研究に関して、1分子レベルでは、1)アクチンフィラメントの螺旋ピッチに相当する周期で、ミオシン分子モーターが結合しやすい"ターゲットゾーン"の存在を示した(Suzukiら,Biophys.J.,2011)。SPOC研究においては、1)心筋収縮系の生理学的研究(慈恵医大との共同研究)が着実に進展する一方、2)SPOC機構に関する理論構築が終わり、単位モデルを発表することができた(Satoら,PBMB,2011)。これの連結拡張モデル(筋原線維モデル)の構築も着実に進展している。さらに、3)HeLa細胞への力学刺激によって、細胞分裂のタイミングを制御できるという著しい成果が、PNASに受理された(Itabashiら,2012)。そして、4)染色体分配装置のミクロ力学に関するRockefeller大学との共同研究の成果を発表した(Shimamotoら,Cell,2011)。
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