研究課題
我々は出芽酵母において、tRNA前駆体の細胞質から核への逆行性の輸送がRNA修飾の生合成に関わることを明らかにした。tRNAPheの37位に存在する嵩高い修飾塩基であるWybutosine (yW)は正確な読み枠の維持に関与することが知られている。その生合成は、核に局在するTrm5p による1-methylguanosine (m1G)の形成でスタートする。その後、我々が同定した4つのTYWタンパク群による連続的な反応により、細胞質においてyWが形成される。しかし、tRNAPhe前駆体はアンチコドンループにイントロンを持つため、tRNAPhe前駆体が細胞質でスプライシングされるまで、yW形成は進行しない。遺伝学的かつ生化学的な解析から、tRNAPhe前駆体はスプライシング後に、再び核に戻り、Trm5pによるm1G37形成が生じ、細胞質へ再輸送後にTYWタンパク群によりyWが形成されることが判明した(Ohira et al., PNAS, 2011)。我々はアーキア由来tRNAIleのアンチコドン1字目から2-アグマチニルシチジン(agm2C)を発見している(Nat Chem Biol., 2010)。agm2CはGとは対合できずAと対合することでAUAコドンを解読する。また、agm2C合成酵素TiaSを同定し、試験管内でのagm2C再構成に成功した。詳細な反応機構の解析(Terasaka et al, NSMB, 2011)およびtRNAIle-TiaS複合体の結晶構造解析(Osawa et al, NSMB, 2011)から、TiaSがagm2C修飾反応機構を解明した。さらに、TiaSは自身の活性サイトにあるThr残基をリン酸化する活性があることが判明し、RNAとタンパク質の両方を基質にする新規のキナーゼであることも明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
出芽酵母において、tRNA前駆体の細胞質から核への逆行性の輸送がRNA修飾の生合成に関わることを明らかにした。この成果は、tRNAが成熟する過程でtRNA前駆体が細胞内をダイナミックに移動することを実験的に証明した成果として大きな意味がある。また、プロジェクト開始直前に報告した新規RNA修飾アグマチジンの生合成機構の解明に大きな進展があった。修飾反応の生化学的な解析と構造生物学的な解析(つくば産総研、沼田博士との共同研究)を並行に進めた結果、RNAとタンパク質の2つの基質をリン酸化するという修飾酵素のユニークな性質と修飾反応機構の全貌を解き明かすことに成功した。NSMB誌に連報として報告できたことは、このプロジェクトの成果である以上に、この分野において日本の研究グループの実力を示すことができたという意味でも特筆すべき成果であると考えている。
新規修飾構造の同定に関しては、大きな進展が期待できる。化学構造の決定、修飾酵素の同定、試験管内再構成、機能解析などを精力的に行っていきたい。FTSJ1変異に由来する非症候性X連鎖精神遅滞(NS-XLMR)や糖尿病と難聴を併発するMIDDの発症メカニズムに関しても力を入れて取り組んでいきたい。また、ICE-Seq法によるヒトトランスクリプトームにおけるイノシン化部位の網羅的同定に関しても成果をいち早くまとめ、論文発表をめざす。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件) 備考 (2件)
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