研究課題/領域番号 |
22227006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 勉 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20292782)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | RNA修飾 / RNAエディティング / RNAマススペクトロメトリー / イノシン / tRNA / mRNA / RNA修飾酵素 |
研究概要 |
N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(t6A)は、40年以上前に発見された最も有名な修飾塩基の1つで、ANNコドンを解読するtRNAの37位に存在する。ところが私たちは,t6Aは大腸菌や出芽酵母において,さらに脱水環化してオキサゾロン環をもつ活性エステルであるサイクリックt6A(ct6A)を形成していることを発見した(Miyauchi et al, Nature Chem Biol., 2013)。この新規の修飾塩基は加水分解をうけやすいため,これまでの解析手法では検出できなかったが,試料の調製法を最適化することにより、はじめてその検出が可能になった。とくに大腸菌にはt6Aはほとんど存在しないことが判明した。ct6Aは細菌、酵母、菌類、植物、原生生物などさまざまな生物種に広く分布していたが、アーキアと哺乳動物ではt6Aが使われていることも明らかとなった。さらに、比較ゲノム解析などによりct6Aの生合成に必須な修飾酵素TcdAを発見し、ct6Aの試験管内合成にも成功した。出芽酵母においては2つのtcdA遺伝子ホモログTCD1とTCD2を発見した。これら2つの遺伝子いずれもct6Aの生合成に必須であり、これらの遺伝子は非発酵性の炭素源による生育に必須なことも判明した。ルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイにより,ct6Aはコドン認識能を補助するはたらきのあることが示された。また,リボソームA部位におけるコドンとアンチコドンとの対合の構造モデルから,ct6Aの側鎖がコドン1字目のAと水素結合している可能性が示された。t6Aは1969年に発見され,おもに大腸菌や出芽酵母を用いて研究されてきたが,これらの研究はct6Aが加水分解されたアーティファクトを研究してきたことになり,私たちの研究は,これまでのまちがった化学構造を前提とした40年来の研究の見直しをせまるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
サイクリックt6Aに関しては、当初の目標を大幅に超える研究の進展があったと考えている。修飾の発見から短期間で、化学構造の決定、修飾酵素の同定、試験管内再構成、機能解析など、重要なデータを揃えることができ、論文もタイミングよく出すことができた。I修飾の同定に関しては、2011-2012年にかけて、情報科学的に大量に同定する方法(RDD法)に席巻されたような時期があり、かなりdiscourageされたが、その後RDD法で同定された部位は、90%以上が偽陽性であるという報告がなされ、生化学的にI修飾を同定することの重要性が再認識され、私たちのICE法に注目が集まりつつあるのは予想外であった。特にChuan Heらの総説(Song et al, Nature Biotech, 2012)でICE法がbisulfite法と並んで紹介されたことは大変光栄に感じている。ICE-Seqの論文は現在リバイズ中である。
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今後の研究の推進方策 |
サイクリックt6Aに関しては、現在、修飾反応の詳細な解析、および修飾酵素-tRNA複合体の共結晶構造解析が進行中であり、大きな進展が期待できる。FTSJ1変異に由来する非症候性X連鎖精神遅滞(NS-XLMR)や糖尿病と難聴を併発するMIDDの発症メカニズムに関しても重要なデータがそろいつつあり、間もなく投稿論文を執筆できる状況である。さらに、新規キャップ構造に関しても、すでに化学構造を決定しており、プロジェクト後半の主要な成果として大変期待している。
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