本研究の目的は、モービリウイルスとニパウイルスについて、ウイルス感染に起因する宿主細胞応答ネットワークおよび蛋白相互作用を体系的に明らかにし、それらのウイルスの病原性発現への関与を明らかにすることである。平成22年度は、モービリウイルスの代表として牛疫ウイルスを感染させた上皮細胞および血球系細胞からcapを持つ転写産物の断片を増幅させCAGE libraryを作製し、超高速シークエンサーにより塩基配列を決定し、細胞種特異的に発現変動する遺伝子群とその発現を司る転写因子群を抽出した。その結果、これまでのマイクロアレイ解析結果と同様の傾向を示すことは確認できたが、マイクロアレイでは得られなかった宿主遺伝子発現動態の変動も検出された。さらに、アクセサリー蛋白欠損ウイルスを用いた同様の解析も行った結果、本蛋白が細胞種特異的な宿主応答ネットワークに広範にわたって関与することも見いだした。現在得られたデータの詳細な情報統計学的解析を行っている。ウイルス感染後に関与する宿主細胞因子の探索としては、ウイルスの細胞への侵入に関与する全く新たな因子を発見した。これまではウイルスのH蛋白に対するレセプター3種類が同定されていたが、ウイルス粒子が細胞から発芽する際に細胞因子であるCypBを取り込み、他の細胞に感染する際にはそれと結合能を持つ膜貫通性糖蛋白CD147を介して侵入するという新たな経路の存在を明らかにした。本発見により既知のレセプターを持たない細胞での感染が起きている理由の一端を明らかにした。また、宿主細胞因子Peroxiredoxin 1がウイルスN蛋白に結合し、効率的な転写および複製に関与していることを発見した。このことは、ウイルスが細胞への感染初期段階に効率的な転写・複製を開始するために宿主因子を上手く利用する機序を持つことを示している。
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