研究課題/領域番号 |
22229005
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
渡辺 守 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 教授 (10175127)
|
研究分担者 |
中村 哲也 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 寄附講座教員 (70265809)
|
キーワード | 大腸上皮 / 組織幹細胞 / 体外培養技術 / 細胞治療 / 幹細胞移植 / 再生医療 / 大腸炎 / 創傷治癒 |
研究概要 |
前年度までに、マウス正常大腸上皮細胞を無血清培地で3次元培養することにより、長期にわたって体外培養する技術を確立した。本法を用いるとLgr5分子発現陽性大腸上皮幹細胞が増やしうることが明らかとなった。さらに培養大腸上皮幹細胞を移植すると、再び個体に戻った後にも幹細胞として機能し、正常大腸上皮を再構築することを見いだした。 本年度はこれをさらに発展させ、移植した培養細胞が傷害上皮を修復する過程を詳細に検討した。すなわち大腸上皮傷害を惹起したマウスにEGFP陽性培養大腸上皮を移植し、移植後短期におけるドナー細胞の分布を検討した。その結果、体外で培養した上皮細胞が移植数日後に単層細胞としてレシピエント大腸に生着すること、ドナー細胞は大腸傷害部位、すなわち上皮欠損部を被覆するように分布することがわかった。さらに移植後4週では、ドナー細胞はレシピエント内に正常上皮組織を再構築しうることを見いだした。重要なことに、この培養細胞による移植は、たった1個の大腸上皮幹細胞から体外で増やした培養ドナー細胞によっても再現できることも明らかとなった。 また培養腸管上皮を用いる臨床応用技術としては、まずその前段階プロジェクトとして、培養小腸上皮を用いて腸管による薬物排泄機能を解析するための基盤システムを構築した。 本成果は、培養幹細胞を用いた消化管上皮再生が技術的に可能であることを明らかにした世界で初めてのものであり、世界的にも高い評価をうけることとなった(Nature Medicine 2012)。本研究によって、大腸上皮幹細胞の新しい培養技術を提示できたのみならず、微小な組織片から得た大腸上皮幹細胞による大腸再生治療の技術基盤を示す大きな成果があげられたと考えている。 また、小腸上皮による薬物輸送解析システムも成果を上げ(BBRC 2012)、ヒト検体を用いる応用技術開発の進展が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常大腸上皮細胞の培養技術を、幹細胞を安定して増やす技術として確立した。また、診断ツールとしての応用のため、培養腸管上皮による薬物輸送解析システムを開発し報告した(Mizutani et al.BBRC 2012)。さらに、培養大腸上皮細胞を用いる移植が理論的に実現可能であることを実験的に明確に示し、さらにただ一個の幹細胞から本法で増やした細胞によっても組織修復治療が可能であることを明らかにし、世界的にも高い評価を受けることとなった(Yui et al,Nature Medicine 2012)
|
今後の研究の推進方策 |
独自の大腸上皮幹細胞培養技術を利用し、さらにさまざまな応用技術開発を目指したい。そのためにまずヒト細胞を同様の手法で体外培養する技術の確立を急ぐ予定である。さらにこの培養ヒト大腸細胞が有する移植治療資源としてのポテンシャルを確認するため、異種間移植実験をおこなう予定である。 また、上皮細胞の免疫機能の解析についても、上皮-免疫担当細胞間の相互作用の解析、上皮細胞における発現遺伝子解析などのプロジェクトが各々進行中である。
|