研究課題/領域番号 |
22229005
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
渡辺 守 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10175127)
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研究分担者 |
中村 哲也 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (70265809)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 幹細胞移植 / 再生医療 / 大腸炎 / 創傷治癒 / 大腸上皮 / 組織幹細胞 / 体外培養技術 / 細胞治療 |
研究概要 |
腸管上皮の再生機構を明らかにし、ヒト消化管再生医療に応用することが期待されている。正常な腸管上皮を体外で操作し解析することは技術的に困難とされていたことを背景とし、申請者・渡辺と分担者・中村は、正常マウス大腸由来上皮細胞を長期にわたり無血清培地中で3次元的に培養維持する画期的技術開発に着手し、かつ独自の大腸上皮幹細胞培養技術の応用を図り、「正常上皮細胞機能を解析すること」、「培養大腸上皮細胞の臨床応用技術基盤を確立すること」を目的とした。 本研究の結果、すでに本法でたった一個の幹細胞から増やした細胞移植で、傷害された腸管上皮が修復・再生可能であることを示すことができ、さらに胎児由来の腸管上皮幹細胞の初代培養及び成体マウス大腸への移植に成功し胎児由来幹細胞の性状を報告した。 本研究における「上皮細胞機能解析」でa) 幹細胞の単離・培養と性状解析、b) 大腸上皮細胞がもつ生体防御機能解析を進めること、また、「培養大腸上皮細胞の臨床応用技術開発」でa) バイオマテリアルとしての応用技術、b) 診断・治療ツールとしての応用技術開発を目指した研究を展開することは、消化管上皮傷害を修復するための再生医療技術の開発に重要な知見を提供すると期待される。また、異なる個人から得る培養細胞を用いて腸管上皮機能を解析することで、個別化診断・治療法へ応用できる可能性をもつものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に以下の研究成果が得られた。 1. マウス大腸幹細胞培養とこれを用いた移植技術の確立 新規大腸上皮培養法を開発し、マウス大腸上皮を無血清培地で3次元的に培養可能であること、および継代操作を経て1年を超す長期培養が可能であることを示した。次に、1個の大腸上皮幹細胞由来の大腸上皮細胞を大腸傷害モデルマウスに移植し生着した結果、全ての分化細胞と増殖細胞を含む正常な大腸上皮を構築することを明らかにした。わずかな数の幹細胞であっても、これを体外で増やし移植することで機能的大腸上皮再生可能な細胞治療が実現可能であることを提示した本成果は、培養組織幹細胞を利用する再生医療の進歩に重要な知見を供与すると考えた。さらに胎児由来の腸管原基細胞を同様に培養し、成体マウス大腸に移植した所、大腸細胞への分化・機能を認めた。以上より移植モデルにより幹細胞機能評価が可能であることが示唆された。 2. 正常腸上皮3次元培養を用いた薬剤輸送のリアルタイム解析 新しい腸管上皮培養技術を利用し、p-糖蛋白(P-gp)による薬剤輸送動態を解析する新技術を構築した。すなわち、3次元培養したマウス小腸上皮がP-gpを介し基底側から管腔側へ基質を能動輸送することを明らかにした。さらにリアルタイムイメージングと数理モデル解析を組合せ、このP-gp依存性輸送透過係数を推定し得た。本システムは、正常腸管上皮におけるP-gpの誘導剤や阻害剤のスクリーニング、あるいは異なる個人から得られる腸管上皮におけるP-gpの機能評価など、さまざまな用途へ応用可能な技術となりうると期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、以下のプロジェクトを進める予定である。 「大腸上皮細胞機能解析」ではまずa)選択的幹細胞培養技術の確立を継続する。大腸上皮幹細胞培養において、細胞外基質と培地添加因子から完全に動物因子を排除する技術確立を目指す。b) 大腸上皮による生体防御機構解析では、培養するマウス腸管上皮細胞と非上皮細胞集団との長期共培養システムを確立することにより、上皮―リンパ球相互作用とこれにおよぼすサイトカイン・抗原提示機能の影響を解析する。 「培養大腸上皮細胞の臨床応用技術開発」ではa) 培養大腸上皮細胞を用いた細胞治療の基礎検討のプロジェクトで、移植培養細胞のレシピエント腸管への生着、組織構築能を評価するための新しい腸管障害モデルの作製に着手し、新しい知見を既に得た。今後はこの新規モデルを利用し、細胞移入経路、量、回数、時期、腸炎改善効果などの評価を、期間内に達成することを目標とする。b) ヒト大腸上皮細胞培養技術確立のプロジェクトでは、マウス腸管上皮細胞培養法に改良を加え確立したヒト大腸上皮幹細胞培養技術を利用し、異なるヒト疾患、異なる個人からの大腸上皮サンプルを用いて疾患における上皮異常解析などを進める予定である。c) バイオマテリアルとしての応用技術開発においては、個人から得る腸上皮を用い、上皮による物質輸送を3次元培養のままで解析するなどの応用を進める予定である。d) 診断・治療ツールとしての応用技術のプロジェクトでは、培養上皮細胞にレンチウイルスベクターを用い遺伝子導入する技術を応用し、遺伝子ノックダウン細胞移植による大腸局所的遺伝子欠失マウスモデル等を作製し、上皮機能異常が個体に与える影響の検討をおこなう予定である。
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