本研究は、KLFファミリーメンバーが生活習慣病と癌の病態制御にどのような役割を果たすかを明らかにすることを目的として進めた。主にKLF5とKLF6の解析を進めた。心血管系においては、KLF5が心腎連関を制御すること、KLF6が心筋細胞と線維芽細胞の相互作用を制御することを見いだした。また、KLF6はマクロファージで働き、大動脈炎症と解離を制御することを明らかにした。マクロファージを含む骨髄系細胞でのKlf6ノックアウトによりアンジオテンシンIIと塩化カルシウム刺激による大動脈炎症が亢進し、解離を生じるようになる。腎臓においてはKLF5は集合管上皮細胞に発現し、交感神経刺激により活性化し、マクロファージの活性化を促すことを見いだした。また、KLF6は脂肪細胞分化にも寄与する。これらの作用により、KLF5とKLF6は心血管疾患及び腎疾患において、炎症やリモデリング、さらに臓器間連関を制御していると考えられる。また、KLF5は腸管幹細胞に発現している。Lgr5陽性腸管幹細胞でKlf5遺伝子をノックアウトしたところ癌化が著明に抑制されたことから、KLF5は、腸管幹細胞のレベルで癌化を制御していると考えられる。本研究ではKLF5/6の制御機構や相互作用分子、標的分子を多数同定したが、これらは今後の生活習慣病と癌に対する新たな治療標的として注目される。特に、生活習慣病と癌に共通する基盤病態である慢性炎症や、臓器連関への新しいアプローチの開発へつながることが期待される。
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