研究課題/領域番号 |
22229009
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 寿郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80323020)
|
研究分担者 |
川村 猛 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (70306835)
|
キーワード | エピゲノム / インスリン抵抗性 / 肥満 |
研究概要 |
環境変化がどのようにしてエピゲノム修飾につながるか?」エネルギー消費を担う JHDM2A はPKAシグナルでリン酸化され スイッチON ① エネルギー消費は、寒冷あるいは飢餓時に活性化される交感神経系を介したPKA (プロテインキナーゼ A) シグナルによって促進される。このことから、PKAによるJHDM2Aの翻訳後修飾、すなわちリン酸化修飾が細胞内エネルギー制御の一端を担っていると考えた。キナーゼ特異的リン酸化部位予測ソフトウェアを用いた解析によって、JHDM2Aの2ヵ所のセリン残基がPKAコンセンサス配列に合致し、これらの配列は動物種を超えて保存されていた。native JHDM2Aを免疫沈降し翻訳後修飾プロテオミクス解析によって、それらセリン残基がリン酸化修飾を受けていることを発見した。この結果をもとにGST融合JHDM2Aタンパク質を用いたin vitro PKAアッセイを行ったところ、このリン酸化部位が265番目のセリン残基であることを同定した。我々は、これをもとにリン酸化ヒトJHDM2A抗体の作製を試みた。S265リン酸化ペプチドをマウスに免疫し、イムノブロッティングで内在性のリン酸化JHDM2Aを検出可能な抗体を得た。 ② JHDM2AのS265A変異体はUCP1発現にinactive。次いでこのリン酸化の意義を検討した。内在性JHDM2Aをノックダウンさせた不死化褐色脂肪細胞に外来性ヒト JHDM2AのPKAリン酸化セリン残基のアラニン変異体S265Aを発現させたところ、交感神経刺激 (PKAシグナル) によって増強する脱共役蛋白質 UCP1 の発現が抑制されることを見出した。これより、PKA シグナルによる JHDM2A のリン酸化は、褐色脂肪組織での UCP1 による熱産生すなわちエネルギー消費に重要な役割を担っていることを見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① 3次元動的クロマチン解析への進展。JHDM2Aは、低酸素状態で発現が誘導される。HIF1 が直接転写を活性化する一方、抗体作製から JHDM2aがHIF1と複合体を形成し、JHDM2A が足場となり、HIF1を転写開始点に引き寄せる、クロマチンループ構造の変化を介して転写を誘導する機構を明らかにした。cAMP刺激の有無で行ったプロテオミクス解析から、JHDM2AがcAMP-PKAシグナル依存性にSWI/SNF(クロマチン構造の動的変化に関与するクロマチンリモデリング因子で, ATP の加水分解によってヌクレオソーム構造を変動させる巨大複合体)コンポーネントと複合体を形成していることを見いだした。なかでもATPase活性を有するBRG1/BRMと、DNA結合を促進させるBAF250a,b がcAMP依存性に同定されている。当初、JHDM2AはH3K9脱メチル化反応のみでchromatin openingを考えていたが、MCB 2012 に発表した知見と、プロテオミクスの結果からJHDM2AはPKAシグナル依存性にクロマチンを動的に制御している可能性が判明し、当初予定以上の成果が見込める。② 骨粗鬆症・骨硬化症へのエピゲノム研究に進展。SETD5 による骨脂肪分化のスイッチとしてWnt5aとPBX1が挙げられ、メカニズムの一端が解明された。SETD5のコンディショナル欠損 (KO) マウス作製は予定計画になかったが、作製しすでにホモglobal KOマウスが誕生している。細胞生物学的解析に加え、個体レベルでの SETD5 の解析を可能とし、予定以上の成果が期待される。③ SETD5が骨と脂肪分化を分けるスイッチとわかった今、高齢化社会の慢性疾患である骨粗鬆症や、難病である骨硬化症 のエピゲノム研究にも進展してきている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) H3K9の脱メチル化酵素(JHDM2A)異常(S265A)による肥満発症のメカニズムを解明 ① JHDM2Aがリン酸化で活性化されるメカニズムの解明。S265のリン酸化が何故UCP1発現に必要なのか、細胞内局在、遺伝子局在、複合体形成の違いが可能性としてあげられる。WTとS265Aの強制発現kBAT細胞においてJHDM2A細胞内局在解析、遺伝子局在解析、JHDM2A蛋白複合体解析を進める。(2) 3T3-L1脂肪細胞分化におけるヒストン修飾の時系列解明。分化の過程でSETDB1翻訳後修飾がどのように変化し、酵素活性に影響を及ぼすか、ユビキチン化との関係を引き続き要素技術を駆使し解析する。① 3T3-L1脂肪細胞分化過程でのSETDB1の酵素活性測定を行う。分化過程における内在性SETDB1のリン酸化修飾の変化を解析する。リン酸化酵素・リン酸化に依存して変化する相互作用タンパク質を質量分析により同定する。(3) ヒストンメチル化酵素候補蛋白SETD5の酵素活性の同定① SETD5は酵素活性の有無の解析はあらゆる手を尽くしているが今のところ得られていない。昨年Cell誌にSETD5がH3K9me1修飾を入れる端緒データが載せられた。その論文の主旨別の蛋白(PRDM16)の活性を見つけたという途中経過の図の1コマである。抗体でのイムノブロットを示しただけで薬理学的な活性を見たものでなく、かなり(再現取れるのか)ナイーブなデータである。我々は現在、蛋白発現コンストラクトを責任著者 (T.J.) から分与して頂き、再現性の実験に取り組んでおりこれを進める。(4) SETD5の骨と脂肪細胞分化決定の分子メカニズム解明① 作製した高感度抗体で3T3-L1前駆脂肪細胞でChIP Seqを行い、標的遺伝子を見つける。② 作成したSetd5のノックアウトマウス解析を行う
|