研究概要 |
不完全情報をいかに扱うかが現代アルゴリズムの大きな課題になっている.我々は過去数年この問題に取り組んできたが,今までの研究はどちらかと言えば時間的な情報の不完全性つまり将来の情報は原理的に得られないという困難に立ち向かうものであった.しかし,情報の不完全性は勿論これだけではない.例えばインターネットの広範な部分に広がるデータは原理的には完全なデータとして存在するものの,それを欠損なく取得するのは極めて困難である.本研究の目的は,このような空間的な情報の不完全性を克服できるアルゴリズムに関して,その設計技法と評価手法を含めた総合的体系を作り上げることである. 以下,代表的な結果である最大安定マッチング問題に対する近似アルゴリズムの改良を例に成果を述べる.安定結婚問題とは,N人の男性とN人の女性と各個人が持つ希望リストが与えられたときに安定なマッチングを求める問題である.この問題に対して,不完全リストと同順位リストという拡張を許した場合の問題に最大サイズの安定マッチングを求める問題(MAX SMTI)はNP困難であることが知られている.MAX SMTIに対する既存の最良のアルゴリズムはMcdermidによるもので,その近似度は1.5であった.我々は同順位リストを男性のみに許した場合の問題に対し,近似度を25/17(<1.4706)に改良した.この結果はオリジナルのMAX SMTIに対する近似度改良への重要な一歩である.
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