研究概要 |
本研究の目的は、miRNAとsnoRNAの網羅的発見と機能解析を高精度に行う計算機手法を開発することである。本年度は昨年度に開発したmiRNA前駆体及び成熟miRNAを高精度で予測する手法について論文発表を行った(Terai et al 2012)。成熟miRNAの生体内での役割を解明するためには、成熟miRNAのターゲットとなる遺伝子を予測することが重要である。我々は昨年度、成熟miRNAとターゲット遺伝子の近づきやすさの指標(アクセサビリティー)を効率よく計算する手法を開発した(Kiryu et al, 2011)。Clip-seq法により実験的に同定されたmiRNA結合サイトに対し、この手法でアクセサビリティーを調べた結果、バックグラウンドに対し、miRNA結合サイトのアクセサビリティーが高いことが明らかになっている(Kiryu et al 2011)。またこのような傾向は、miRNA以外のRNA結合タンパク質の結合領域についても見られることが明らかになった(論文準備中)。このことは、miRNAの遺伝子制御機構が進化的に安定であるためには、ターゲット領域のアクセサビリティーも進化的に保存する必要があることを意味する。このような二次構造的性質の保存性は、塩基置換による構造の変化を考慮しない、従来のRNAの進化モデルでは取り扱うことができないため、我々は、塩基置換による二次構造変化の効果を考慮にいれたRNAの進化理論を構築することを開始した。まず手始めに、RNA二次構造の折りたたみエネルギー及び、構造ゆらぎを表す熱力学的エントロピーの塩基置換による変化を網羅的に計算するアルゴリズムを開発した(Kiryu et al 2012)。本年度はこの手法をmiRNAのターゲットサイト周辺の二次構造領域に適用し、塩基の置換・挿入・欠失に伴うアクセシビリティーの変化が病気を引き起こしうるかどうかについて研究を行なっている。その他、構造RNAのマルチプルアライメント、RNA-RNA相互作用予測、シュードノット予測などの難問に、整数計画法を用いるという、新しいパラダイムを提案した論文(Kato et al, 2012, Sato et al, 2012)や、ゲノム集団の進化を分析するために必要なハプロタイプ推定問題についての研究(Matsumoto, 2013)を行った。
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