前年度まで、われわれはプロトルーディン(protrudin)が神経細胞内でRab11依存的なリサイクリングエンドソームの輸送を制御する膜タンパク質であることを示してきた。本年度はRab11による小胞輸送はトランスゴルジネットワーク(TGN)から形質膜への極性輸送に注目して研究を行った。このRab11依存的な小胞輸送は神経細胞では軸索輸送のみならず、樹状突起スパインにおける受容体の輸送にも関与しており、高次脳機能と関連する機構として注目されている。Protrudinは脂質結合モチーフFYVEドメインを有しているが、その特異的結合脂質としてイノシトールリン脂質PtdIns5Pを同定した。また神経細胞を用いてprotrudin結合タンパク質を網羅的に解析した結果、細胞内輸送に関与する二つのユニークな分子、PtdIns5Pの合成酵素、およびPDZとC1ドメインを有する膜タンパク質が同定された。ノックダウン実験の結果から、前者はprotudinの作用に対して促進的に、後者は抑制的に働くことがわかった。またこれらはprotrudinやRab11と共にTGNで共局在しており、協調的に極性輸送制御に関与していることが示唆された。一方、protrudinはシナプスの神経活動依存的シグナルによりリン酸化されるが、protrudinのPtdIns5P結合能はそのリン酸化によって消失した。さらにprotrudin欠損マウスの海馬神経細胞では、軸索形成異常の他に、樹状突起スパインの成熟異常が認められた。これらの結果より、protrudin複合体による神経細胞内極性輸送の制御機構の詳細が明らかになったと共に、神経機能制御への関与が明らかになった。
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