我々は、移動神経細胞を子宮内胎児脳電気穿孔法によって可視化する独自開発の技術を使い、大脳皮質脳室面で誕生した神経細胞の多くがその後多極性に形態変化し、脳室帯直上(多極性細胞蓄積帯MAZと命名した)で多数の微小突起を伸縮しながら長時間留まることによって「脳室下帯」を形作ることを見いだした。そして、この細胞動態を「多極性移動」と命名した。この「脳室下帯」を構成する細胞のユニークな細胞動態を制御する分子機構を明らかにするため、これらの細胞に発現する受容体として同定したUNC5D及びBMP受容体に結合する内在性リガンドを検索した。その結果、前者についてはネトリン1が、後者についてはBMP6/7がその候補として見いだされた。ネトリン1については、確かにUNC5Dに結合することを生化学的に証明することができた。また、多極性移動神経細胞が「脳室下帯」に出現しつつある時期に、これらの細胞を子宮内胎児脳電気穿孔法によるGFP発現ベクターの導入によって可視化し、FACSで分離濃縮した後にマイクロアレイ解析を行った。得られた分子の一部について、マウス胎生期大脳皮質を用いてin situ hybridization法による発現分布解析を行ったところ、興味深いことに大脳皮質の内側と外側とで逆勾配をもって発現する分子群が見いだされた。すなわち、内側皮質に外側皮質より強く発現している分子と、逆に外側皮質に内側皮質より強く発現している分子とがあることがわかった。
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