研究課題
多極性移動神経細胞は、大脳皮質の脳室面近くで誕生した後、脳室下帯(多極性細胞蓄積帯)で長時間留まっている間、あたかも周囲を探索しているかのように多くの突起をさかんに伸縮する特徴的な運動を示す。そこで、その多極性移動神経細胞の動態を高い時間解像度で観察したところ、成長円錐の突起の動きと良く似た挙動を示すことがわかった。そこで、アクチン系がその動態に関わる可能性を想定し、検証を行った。まず、成長円錐においてアクチン線維の重合/脱重合を制御してその運動に関わるLamellipodin (Lpd)が多極性移動細胞に局在することを確認し、その発現阻害によって突起が減少することを見いだした。LpdはEna/VASPを細胞膜にリクルートすることが知られているため、次にEna/VASPも多極性移動細胞に存在することを確認した上で、その機能を阻害したところ、同様に突起が減少することがわかった。Lpdの発現を阻害した状態でEna/VASPを膜に強制的に発現させると、突起の減少がレスキューされることもわかった。LpdはSHIP2によって産生される細胞膜上のPI(3,4)P2に結合するため、SHIP2を阻害したところ、同様に突起の減少が見いだされた。最後に、Lpdの発現を阻害した状態で、野生型のLpdを発現させると突起の減少はレスキューされるものの、PI(3,4)P2への結合部位であるPHドメインを欠失したLpdではレスキューできないことがわかった。以上より、ダイナミックに動く突起の細胞膜にPI(3,4)P2がSHIP2依存的に局在し、そこに Lpdが結合して、さらにEna/VASPを介してアクチン線維をリクルートしてくることにより、多極性移動細胞の突起が制御されることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、脳室下帯/多極性細胞蓄積帯を構成する細胞がいかなる制御を受けてその構造が成り立っているのかを明らかにすることを目指しているが、本年度は、当初の計画にはなかった、脳室下帯細胞の動態の細胞内からの分子制御機構を含めて明らかにすることができたため。
最近、ヒトの脳室下帯(SVZ)細胞の形態と性質が明らかになったが、ヒトのSVZは一様ではなく、より表層にあるOSVZと、より深層にあるISVZからなる。OSVZは発生過程で非常に厚く発達し、oRGと呼ばれる自己複製能の高い細胞を多く含む。一方ISVZはOSVZよりも分裂像が少なく、VZの直上に分布する。ここで我々は、霊長類に特異的と報告されたこれらの構造的特徴が、我々の観察したマウスSVZと非常に良く対応していることに気付いた。SEPはISVZと対応し、REPは、OSVZ内のoRG細胞に相当する。これらのことから、OSVZは霊長類の進化に伴い新たに作られた構造ではなく、マウス等に存在していたREPが著しく発達したものと考えられた。OSVZは特に発生後期には皮質神経細胞の主な産生部位であり、その発達こそが、大脳皮質巨大化の主要因と考えられる。また我々はマウスにおいて、脳室帯組織が産生するREPとSEPの比は、背内側皮質領域では低く、外側皮質領域では高いことを観察した。そこで、この部位による違いを利用してREP/SEP比を制御する機構を明らかにすることができれば、脳の進化にも大きなヒントが得られる可能性がある。そこで今後は、脳室下帯の進化という観点を含めて、そのREP/SEP比の制御機構についても解析を行っていきたい。
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