研究課題
脳の発達の最終段階において神経回路の再編成が観察される。発達期および障害回復期の脳機能の変化はシナプス結合の変化伴う機能ネットワーク自体の変化に起因していることが示唆される。その変化は1)シナプス伝達の変化、2)ネットワーク(配線)の変化によって引き起こされる。神経細胞ネットワーク再編の生体における経時的観察は神経筋接合部で20年前確立されて以降、脳へのアプローチという技術的な制約のため情報は圧倒的に少ない。申請者はin vivo2光子励起観察の技術改良を行い、マウス大脳皮質において、世界トップクラスの脳表面から1mm深部(皮質全層)の微細構造をサブミクロンレベルで観察する技術の構築を行うとともに、同じ動物で同一微細構造の2ヶ月以上の長期繰り返しイメージング技術も構築し、中枢シナプス結合の可塑的長期変化の観察が可能となった。この技術を慢性疼痛モデルマウスに適用し、過剰末梢入力に伴う大脳皮質体性感覚野におけるシナプスの再編について、同じ動物の同じ大脳皮質第5層錐体細胞のシナプスを3日毎に観察した。その結果、過剰入力発生後に痛覚過敏の発生時(感覚閾値の低下期間)に限定して、シナプス構造のターンオーバー(新生・消失)が増加することが判明した。その後、痛覚過敏が持続しているにもかかわらず、シナプスターンオーバー率は過剰入力発生以前の値まで低下した。この結果から、過剰感覚入力の発生に対し、大脳皮質の回路は短期間に再編が起こり過剰入力を処理する回路が形成されることが示唆される。この再編された回路が末梢からの過剰入力に対して大脳皮質感覚野の反応性の亢進を維持しており、疼痛過敏が持続する機序である可能性が示唆される。
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