本研究では、生体イメージング技術の高度化を行い、主に次の課題を遂行した。 1)シナプス再編へのグリアの関与:報告者はこれまで、ミクログリアによるシナプス監視について生体イメージングを用いて明らかにし、障害脳においてはシナプス除去を引き起こすことを明らかにしてきた。一方、ミクログリアが活性化状態にある幼若期において、シナプス形成に関連する可能性の検討を行った。生後8-10日目マウス大脳皮質感覚野を錐体細胞の樹状突起を生体2光子励起顕微鏡で観察すると、ミクログリアが接触すると、高頻度でシナプス後構造(スパイン)の前駆構造であるフィロポディアの形成を惹起した。ミクログリアの活性化阻害薬ミノサイクリンによりその形成が抑制された。ミクログリア特異的プロモーターiba1誘導によりディフテリアトキシンでミクログリアを死滅させると、生後12日目のシナプスの密度が有意に減少した。この結果から、ミクログリアは幼若脳では神経回路形成に係わることが示唆された。 2)グルタミン酸がミクログリアの誘因物質であるのか議論の絶えないところであった。生体に極局所で神経伝達物質をミクログリアに投与するためにcaged光感受性物質のuncagingを2光子励起法で確立した。光活性化によるグルタミン酸にミクログリア突起が応答するものが散見された。応答の有無について形態的に分類を行った。その結果、グルタミン酸に応答するミクログリアは突起の数が少なく、比較的大きな細胞体を持っている活性化ミクログリアであることが判明した。 3)シナプス新生―消失ターンオーバーの局所位置情報の解明:一日に5-10%のシナプスが新生・消失していることが判明した。新生する場所はランダムである可能性が示唆された。一方、慢性疼痛モデルマウスや脳梗塞モデルマウスでは20-30%のシナプスが毎日入れ替わり、神経回路の再編が促進していることが判明した。
|