研究概要 |
後頭葉に顕著に観察される10Hz近傍の自発脳活動であるアルファ波の存在は古くから知られているが,その機能についてはほとんど分かっていない.我々は,アルファ波のリズムで視覚的な揺れ(ジター)が知覚されるアルファジター錯視や,ガンマ波のパワーがアルファ波の位相で変調される周波数カップリングの知見に着目し,アルファ波が情報処理のクロック的役割を果たしているという仮説の検証を行っている.本研究ではジター錯視を軸に,心理物理学的手法と,MEG, fMRI計測を組み合わせることで,アルファ波のクロック仮説を多面的に実証する実験を行った また、アルファ周波数変化に伴うジター知覚の計測と,MEGデータに対する周波数間カップリングの解析を行い,自発脳活動の本態を解明し、最終的にはそれらの知見を文字のデコーディングに応用するための実験を行い、有望な結果をえた MEGやEEG計測は、脳の神経細胞の活動に伴う電気活動を、磁場あるいは電場の変化として直接的に計測するので、時間分解能は原理的には高い。しかしながら、脳から発生する信号は計測ノイズの数分の1以下なので、通常100回程度の計測データの加算平均を取ることによって漸くデータとなる。従って、実用的な時間分解能はかなり低くなっており、研究上大きな問題とされてきた。我々は、脳細胞が刺激を得た後の反応が2次システムの減衰応答で十分近似できることを確認し、その応答の立上り時間、ピーク値、減衰特性のパラメータを、測定データからベイズ定理に基づいて推定する方法を確立し、近年高速化と低価格化が飛躍的に進んだGPU (Graphics Processing Unit)を使って、並列計算でモンテカルロシュミュレーションを行うことにより、実時間に近い推定が可能であることを実証した.この方法が確立すれば、従来の計測を100倍程度効率良く行うことが可能になり、本研究ばかりでなく、脳研究一般に大きく貢献することが期待される
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