本研究では、アスリートの緊張状態におけるパフォーマンス崩壊について脳のどの様なメカニズムで発生し、また、それらの因子構造(モデル)がどのようなものであるかをあきらかにすることを研究の目的としている。 実験では、脳波に加え皮膚温の測定も行い、自律神経系の活動を測定すると共に、fMRIデータに対しネットワーク解析を行った。その結果、脳の島皮質・全体状皮質(ACC)を中心としたこれらの領域が脳内の注意システムを修飾していることが示された。島皮質は心拍などの身体反応を感情に変換すると言われており、緊張場面などでは視床下部の働きによる心拍などの自律神経の昂進が島皮質により感情(緊張)に変換され、過度な賦活が注意システムの崩壊を招くのではないかと考えられた。 本研究では、さらに質問紙を用いたパフォーマンス崩壊尺度も開発し、パフォーマンス崩壊要因についても検討した。その結果、「立腹状態」、「勝ちへの過剰意識」、「先方実力発揮」という要因が「視線注意散漫」という要因に影響を与え、最終的に「知覚運動スキル」に影響を与えることが示された。このことは、fMRIの結果とも一致し、感情、注意、パフォーマンスの崩壊のメカニズムを解釈するうで有用なデータを得ることができた。さらに、本研究では、これらの知見を国民に還元するために、ソフトテニスを題材にパフォーマンス崩壊・向上の要因を評価する質問紙アプリケーションをiPhone/iPad/iPod touch用に開発し無料で配布するようにした。このアプリケーションによって、様々なレベルのプレーヤーがなぜ自分のパフォーマンスが崩壊するのかを探るための資料を得られるようなシステムを構築できた。
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