研究課題/領域番号 |
22240079
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
寺澤 孝文 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (90272145)
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研究分担者 |
太田 信夫 東京福祉大学, 心理学部, 教授 (80032168)
吉田 哲也 常葉大学, 教育学部, 准教授 (70323235)
松田 憲 山口大学, 理工学研究科, 講師 (10422916)
山田 剛史 岡山大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (10334252)
鈴木 渉 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (60549640)
板垣 信哉 宮城教育大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (80193407)
佐久間 康之 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (90282293)
川崎 由花 環太平洋大学, 教育学部, 准教授 (90615832)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ビッグデータ / 縦断的データ / e-learning / 潜在記憶 / 語彙習得 / クラウド / メディアの融合 / 分散学習・集中学習 |
研究概要 |
小中学校の各教室にスキャナを設けドリルデータをクラウドにアップし、紙ドリルの反応データを収集するシステムはほぼ理想形となり、1週間に1万枚を超えるデータを問題なく収集できる状況を構築できた。e-learningシステムではスマートフォン用の学習システムは完成し、フィードバックシステムはフィードバック用の各種データを集約するシステムの完成を待つ状況になった。学習実験からは、学習回数とタイミング条件に交互作用が認められる結果が得られた。すなわち、何回学習するかという条件によって、効果的な学習タイミングが異なるという事実が明らかになった。この事実は、従来社会科学で扱われてこなかった、「いつ」という条件が想像以上に人間の行動に影響力を持つことを示しており、タイミングを制御できるマイクロステップ法の必要性を示す結果といえる。また、この事実は、近年のビッグデータ、特に履歴情報を有する縦断データの解析で、タイミング条件を制御しなければ、微細な行動変化を集約することが難しいことを意味しており(タイミングを統制せずに行動データを多数集めて平均化しても、タイミング条件が誤差となり微細な変動が埋もれてしまう)、本研究のスケジューリング原理がビッグデータの解析にとって有効であることを明示している。 学習回数とタイミング条件の交互作用のほか、抑うつ傾向の縦断的測定により昨年度明らかになった、ほとんどの子どもの抑うつ傾向は大きく変動しないという知見の再現性の検討を進めている。 研究成果の還元では、ひらめきときめきサイエンスの助成事業に採択され、小学生と保護者に紙ドリルと任天堂DS用の学習を提供し、最新の研究成果を体験的に紹介した他、一般市民を対象にしたイベントとリンクさせる形で成果を分かりやすく紹介する機会を3度設け、いずれも好評を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通信メディアに依存しない新しい通信原理の考案と実装により、紙媒体のドリル学習の詳細な反応データを、多数の学習者から収集するしくみは当初の予定以上に効率化され、e-learningシステムもスマートフォンに対応できるなど、縦断データを大規模に収集していくための技術的なハードルはほぼ克服できた(一部、学校の通信環境の不安定さに起因する問題が生じ、代替え策を検討している)。一方、本研究の最終目的である、意識変化とイベントの対応をとるデータベース構築のために、昨年度は意識変動の大きな尺度を特定することを目指したが、子どもの様々な意識の縦断的な変動を個別に描き出す研究はこれまでになかったため、変動の大きな尺度を予想し選別することができなかった。そこで、現在学校現場で必要とされる意識調査項目に限定し、試行錯誤しつつ、その変動を測定していく方向に切り替え、意欲、抑うつ傾向に関係する尺度について意識変動を測定した他、思考力に関係する尺度項目のリストアップを行った。データを収集するシステムづくりは予定通り進んだが、意識変化をとらえる尺度の選定に困難が伴った。また、尺度の特定に試行錯誤が必要となったため、学習ドリルと意識調査のスケジューリングを独立させるためのシステム改良を行ったが、その改良に予想以上に時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
スキャナで紙媒体のデータを収集する方法は、学校の行事などにより子どもが実際に回答した日時とデータ化された日時にどうしてもタイムラグが生じてしまい、それに対応することが難しいことが明確になった。一方で、日時を特定できるe-learningシステムが稼働したことから、最終目的である因果関係を検討するデータベースの構築は、大学生を対象にしたe-learningを中心に実施する。また、意識調査項目として、意欲、抑うつ傾向、思考力に関する質問項目の導入を検討した結果、意欲に関する質問項目を中心に因果関係を検討するデータベースを構築することにする。 抑うつ傾向については、日々のドリルの最後に提示される意識調査への反応から抑うつ傾向が高い子どもや変動の大きな子ども(ほとんどの子どもは変動しない)をピックアップし、その子どもの情報をカウンセラー等に提供することが原理的に可能になった。それによりカウンセラー等から直接その子どもにアクセスし、信頼関係を構築したうえで、いじめや悩みなどへの対応を本人と相談しつつ計画し、実施していくことなどが可能になるといえる。これまでにない有益な方法を提供できると考えたが、数人の臨床心理の専門家に本格的な導入の可否について問い合わせたところ、危機的状況にある子どもをピックアップできても、その子に対応できる体制がなければ導入自体に問題が出てくる可能性もあるとの指摘があり、従来通りナイーブでない質問項目でその変動に関する知見を蓄積するにとどめる。 スケジューリングという新しい方法論を大規模な縦断データの収集に適用する本研究の方法論は、近年注目されているビッグデータの研究の中で、人間の行動予測を目的とする研究において非常に有益な方法になりえる。ビッグデータ系の研究領域においても、可能な限り研究成果をアピールしていく他、一般の方々に対する成果の還元も昨年度以上に力を入れる。
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