研究課題/領域番号 |
22240083
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
松井 章 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, センター長 (20157225)
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研究分担者 |
石黒 直隆 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00109521)
中村 俊夫 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 教授 (10135387)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
山田 仁史 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90422071)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 動物考古学 / 環境考古学 / 安定同位体 / DNA / 家畜 / 民族考古学 / ドメスティケーション / 狩猟 |
研究概要 |
国内遺跡出土の動物遺存体の調査は、大分県埋蔵文化財センターが発掘した大友府内町遺跡出土の動物遺存体の報告において、特にサイのような東南アジア系の珍獣の存在、さらにイノシシ属の中に、野生のニホンイノシシと家畜ブタとが混在することを明らかにした。また、九州大学が発掘した長崎県壱岐カラカミ遺跡出土の報告では、シカ科が少なく、イノシシ属が主体をなし、形態からは区別できないが安定同位体の分析により、飼育されていた個体と野生種とが混在する可能性が高いこと、シカ科は、骨角器の素材だけが移入された可能性があることなどを指摘できた。 海外の調査は、以下のようである。6月18~21日、8/17~8/23まで、ベトナム、ホアビン省マイチョウ村の少数民族の狩猟活動の調査、ハノイ市内のベトナム王朝の都城であったタンロン皇城跡から出土した動物遺存体の調査等を実施し、3/15~3/22まで、中国浙江省文物考古研究所において新石器時代前期の河姆渡文化の田螺山遺跡、同後期の良渚遺跡、南京大学では新石器時代後期の騾駱噸遺跡、上海市博物館では、新石器時代後期の広富林遺跡から出土した動物遺存体を調査し、今後、研究協定を結び研究を継続することになった。 5/18~5/25には、ラオス・ルアンパバーン北部のタイルー族のコクナン村を中心に、焼畑での狩猟や村人の生活誌の調査と、セキショクヤケイやイノシシの骨格標本の収集を行った。 学会発表は、10月の日本人類学会の骨分科会において、近年の動物考古学の進展についての発表を行い、11月のタイ国タマサート大学で開催された15th AAAP Animal Science Congressにおいて、「東アジアにおけるブタの起原」を英語にて口頭発表した。以上のように、研究は順調に進行していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「家畜の起原・伝播」の問題は、世界中の動物考古学の最大のテーマで、中でも東アジアでは世界に先駆けてイヌ、ブタ、ニワトリのドメスティケーションが行われた可能性が指摘されている。本研究では、ラオスのニワトリの現生種であるセキショクヤケイの標本収集と、それらの鳥猟技術の調査を継続中である。また、遺跡出土資料について、中国、ベトナム、日本での出土例を検索中である。日本国内のニワトリの出土例は、九州大学が発掘した長崎県壱岐カラカミ遺跡の環濠から、弥生中期~後期にかけての例を報告し、その後、壱岐市による隣接地域の発掘例からも、ニワトリの遺存体を確認し、今年度に報告予定である。また、九州大学が発掘したカラカミ遺跡からは、日本最古のネコの四肢骨も報告したが、壱岐市の発掘資料中にも、さらにネコの遺存体を確認し、ネコが弥生時代に、水田稲作とともに移入されたことを証明できたことも大きな成果と言える。ブタの家畜化は、沖縄諸島で縄文時代前期からイノシシが飼養されていたことを論じてきたが、2012年度も、中国の新石器時代の浙江省田螺山、良渚、江蘇省の騾駱噸、上海市の古富林などの遺跡から出土した動物遺存体の現地調査を行い、安定同位体のサンプルも採取することができた。これらは2013年度から共同研究として協定書を交わし、報告書を出版し、論文の準備をすることになる。
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今後の研究の推進方策 |
中国の浙江省、南京大学、上海市と遺跡出土動物遺存体の共同研究の実施で合意し、協定書を締結する予定である。これまで台湾大学、中央研究院とは協力しながら研究を進めてきたが、2013年度から新たにベトナム社会科学院、ハノイ国際大学、タンロン皇城蹟、タイ、ラオス、ロシアなどとの動物考古学的な共同研究を実施する予定で、家畜の有無、その伝播、普及などは共同研究の重要な課題となる。 これまで韓国、中国、台湾、ベトナム、タイで動物考古学の調査を実施し、さらにラオス山岳少数民族の村に滞在して民族考古学的調査を行った結果、従来の日本列島内で家畜の動物考古学的研究を進めることの限界が明らかになり、今後、ロシア、韓国、中国、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国の発掘成果にも積極的に調査を行う予定である。現代ラオスの焼畑を生業とする少数民族の暮らしを実見することにより、焼畑を中心とした狩猟・鳥猟活動、家畜飼育など、研究を進展させていきたい。また、DNA分析、安定同位体分析、AMS年代測定、比較形態学、文化人類学などの研究者との共同研究は、さまざまな視点から、考古学から見た家畜文化の解明に新しい可能性を導くものと自負している。
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