これまでの多くの試みにもかかわらず、易分解性などのため安定した組み換えタンパク質の発現がきわめて難しいとされてきた135キロダルトンの全長ピロリ菌CagAの大腸菌における組み換えタンパク質大量発現系樹立に成功した。そこで高度精製した組み換えCagAタンパク質を用いて結晶化を試み、複数の結晶化条件を見いだすとともに X線結晶回折データの取得に成功した。回折データ解析結果から、解像度3.5オングストロームで、CagAタンパク質の立体構造が明らかとなった。結果、CagAは複数のドメイン構造をとるN末側100キロダルトン領域と安定した構造を持たない天然変性構造をとるC末側35キロダルトン領域に分けられることが示された。現在、解像度を上げて、より詳細な立体構造決定を進めている。 ヒトプロテオームには、ピロリ菌CagAのチロシンリン酸化部位であるEPIYAモチーフを保有するタンパク質が5種類しか存在しない。これらEPIYA含有タンパク質のひとつPragminがヒト細胞内でSrcファミリーキナーゼによりチロシンリン酸化されることを見いだした。PragminはEPIYAチロシンリン酸化依存的にSrcキナーゼのインヒビターキナーゼであるCターミナルSrcキナーゼ(Csk)と結合し、Cskの細胞膜移行を妨げる結果、Srcキナーゼの持続的活性化を促すことが明らかになった。この事実から、PragminはSrcファミリーキナーゼの正の制御因子として機能することが示された。ピロリ菌CagAはEPIYAチロシンリン酸化的にPragmin-Csk複合体形成を阻害し、Cskを脱制御するとともにSrcファミリーキナーゼを抑制することが明らかとなった。 flox-CagAマウスの腹腔内にtamoxifenを投与し、生後め様々な時期のマウスにCagAを誘導発現し、消化管を中心とした病変発現を経時観察している。
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