研究概要 |
物理化学的な性状の違いから全長CagAタンパク質(130KDa)は、構造生物学的に N末側の100KDa領域とC末側の35kDa領域に分けられる。そこで今年度は、N末側の100KDa領域に相当する組み換えCagA断片の大量精製ならびにその結晶化を通してX線構造解析を進め、最終的に3.3Åの解像度でCagA N末領域の三次元構造決定に成功した。得られたCagA N末領域立体構造は23本のαヘリックスならびに1つの大きなβシートを有し、3つの独立した構造ドメインから構成される。一方、NMR解析から、CagA C末側領域に相当する35KDa断片は明確な二次構造を保持しない天然変性領域であることが明らかとなった。この柔軟な構造を有するC末領域の一部はN末領域の相同領域と疎水性4ヘリックス束を形成して分子内相互作用することにより投げ縄様ループ構造を作り出す結果、病原性足場タンパク質としてのCagA生物活性を増強させることが明らかとなった。 ピロリ菌感染胃では、胃粘膜上皮が腸管上皮様粘膜に変換する病理学的変化(=腸上皮化生)が惹起される。この腸上皮化生は胃がんの前がん病変と考えられている。これまでの研究から、胃上皮細胞に侵入したピロリ菌CagAによるWntシグナルの異常活性化、とりわけWnt標的分子のひとつCDX1転写因子の異所性発現が腸上皮化生に深く関与することを見いだしていた。そこで本年度は、CDX1異所性発現が胃上皮細胞内に作り出す腸上皮関連転写ネットワークの本態をDNA microarray, ChIP-on-Chip解析等を通して進めた。その結果、CDX1を異所性発現する胃上皮細胞内で発現誘導される遺伝子群の中に細胞リプログラミングにかかわる幹性転写因子SALL4およびKLF5が存在し、これらリブログラム因子が胃上皮細胞の腸上皮様変化に重要な役割を担うことを明らかにした。
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