研究課題
本研究では、がん原遺伝子の活性化による細胞増殖促進機構の全容解明を目指して、細胞内膜系コンパートメントを足場とする新たなシグナル伝達経路の機能解析を進めている。近年我々は、後期エンドソームの脂質ナノドメインに局在する膜アダプター蛋白質p18(LAMTOR1と改名)がMAPK経路のMEK1およびmTORC1経路の足場蛋白質として機能することを明らかにし、さらにSrcやK-Rasなどのがん原遺伝子活性化によるがん増殖促進にLAMTOR1が必須の役割を担うことを見いだした。そこで本課題では、LAMTOR1および後期エンドソーム脂質ナノドメインの機能をさらに分子レベルで解析することによって、がん増殖に直結したLAMTOR1経由のシグナル経路の実体とその制御機構を明らかにすることを目的とした研究を行い以下の成果を得た。1)LAMTOR1欠損細胞を用いた解析より、LAMTOR1-mTORC1経路が細胞増殖の制御において必須の役割を担うことを明らかにし、その標的としてPI3K-Akt-FOXO3a経路を特定した。2)マイクロアレイ解析によりLAMTOR1-mTORC1経路を介して発現制御される遺伝子群を同定した。3)LAMTOR1-mTORC1経路がリソソームの成熟過程においても重要な役割を担うことを明らかにした。4)表皮特異的なLAMTOR1欠損マウスの解析から、LAMTOR1経路が表皮バリア形成においても必須の役割を担うことを見いだした。そのメカニズムとしてLAMTOR1-mTORC1経路が、オートファジーの制御やセラミドなどの脂質成分の合成や分泌に関わる可能性が示された。5)Srcによるがん化に伴うmiRNAの発現変動により、mTORおよびその制御因子の発現が制御されることを見いだし、がん化におけるLAMTOR1-mTORC1経路の意義が示された。
2: おおむね順調に進展している
後期エンドソーム上のLAMTOR1-mTORC1経路が細胞の増殖制御において必須の役割を担うことが明確になってきており、今後さらにその多様な機能を統括的に理解することにより、新たながん治療標的の開拓へと発展する素地が固まりつつあると判断している。
LAMTOR1-mTORC1が制御するシグナル経路が多岐にわたるため、それらの標的分子の同定が困難となっていることが問題点であるが、より特殊な機能を持つ細胞(乳腺など特定の臓器の上皮系細胞)をターゲットとした解析をすることによって解決しようとしている。
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