研究概要 |
薬剤耐性菌の水圏環境中での発生原因,潜伏場所,移動・拡散などの知見はいまだにないので,本研究では,環境細菌において,薬剤耐性が様々な化学物質によっても誘導され,その形質がヒトの病原細菌にまで侵入・伝播する機構と実態を解明することを目的としている. 2年目(H23年度)は昨年度実施に至らなかったマイクロコズムでのオキシテトラサイクリン(OTC)の水中から堆積物への移行と堆積物中の微生物群集への影響を調べた.その結果,30日間で海水へ添加したOTCの60%が堆積物へ移行した.このとき,60μg/gのOTCでは群集構造に有為な変化はなかった,通常OTCでは800μg/mlが有効濃度(ED)である,ED以下の濃度では耐性菌の選択が起こると言われており,今回の結果では耐性率変化は得られていないが,菌叢変化は起こらない事が示唆された.この結果は現在論文を作成中である. また,近年,船舶排気・排水からのバナジウム(V)汚染が懸念されているが,Vの海洋微生物生態系への影響はまったく不明である.本年度,VがOTC耐性遺伝子tet(M)の海洋性細菌から大腸菌への伝達率を上昇させることを明らかにした.さらに,太平洋の底泥試料中のV濃度とOTC耐性率に正の相関があり,実験的に明らかにした耐性遺伝子の水平伝播促進が自然界でも起こっていることが考えられた.Vの遺伝子水平伝播への影響は初めて明らかにされたもので,現在論文を投稿中である.さらに,複合汚染として重油と亜鉛の微生物生態系影響にも着目している. 本研究に関連して,多くの海外の研究者達と抗生物質,金属などによる環境中での薬剤耐性菌出現に関するワークショップを持ち,現在総説論文を複数作成中であり,本研究テーマが国際的にも重要視されていることが確かめられた.次年度は本研究をさらに国際共同研究へ展開する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画より進度が早く進展しており,論文執筆も同時に進んでいる.加えて,海外の多くの研究者との交流を進めたところ,本研究内容は今後国際的展開が各方面から切望されていた.本研究計画はそれに沿っているので,このまま進める予定である.総合的に見て,当初の計画以上に進度・内容とも進展していると判断できる.
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