研究課題/領域番号 |
22241014
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90196816)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 複合汚染 / 薬剤耐性菌 / 耐性遺伝子 / 遺伝子伝播 / 日和見感染菌 |
研究概要 |
薬剤耐性菌の水圏環境での発生原因,潜伏場所,移動・拡散などの知見を得るために,本研究では,環境条件下で,薬剤耐性菌および耐性遺伝子が,抗生物質とともに,他の化学物質による複合影響で誘導される機構および耐性遺伝子がヒトの病原菌へ伝達または耐性環境細菌がヒト環境へ侵入する実態を明らかにすることを目的としている. 3年目(平成24年度)は,昨年度実験的に解明したオキシテトラサイクリン(OTC)の動態およびバナジウムによるOTC耐性遺伝子tet(M)の水平伝播促進についての論文を公表した.また,新しい研究アイデアとして,(1)水圏環境の「非培養菌」の耐性遺伝子のリザーバとしての働きを明らかにするため,フィリピンで以前に採取してあった試料を再分析し,サルファ剤耐性遺伝子sul1, 2, 3のうち,sul1, 2は培養可能菌が主に有する一方でsul3 は稀であるが,海洋では非培養菌がsul3を保有することが明らかになった.これはまったく新しい実態の解明である.さらに,(2)四国沿岸養殖場で分離したOTC耐性海洋細菌から,tet(M)をプラスミド中に保有し,それが大腸菌のゲノム上へ伝達するこれまでにない水平伝達機能を発見した.現在全ゲノム解析によって,大腸菌ゲノム上の挿入位置の特性を解析中である. 本研究では,複数の抗生物質の濃度測定と薬剤耐性遺伝子の定量,および培養可能菌・非培養菌での比較解析という新しいアプローチで実験的証明をし,さらに現場観測との比較による実態へのフィードバックの両面で進めており,順調に期待した成果が出ている.また,遺伝子定量の研究では予定外の新規な結果も得られつつあり,次年度に継続する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の仮説である金属と抗生物質の相互的薬剤耐性発生効果の実験的証明が論文として発表でき,加えて,環境中でのこれまで知られていなかった耐性遺伝子保有者(非培養菌の役割)の解明ができた. 一昨年に世界中の研究者と討論して執筆した「環境中の薬剤耐性菌リスクの提言」に関する論文が近々発表されることになり,これは本研究の出口である「世界へ向けての政策提言」を実現した成果である.このような提言論文はさらにもう一報の投稿を予定しており,当初の予定以上に成果が得られていると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
複合的汚染による環境中薬剤耐性遺伝子の動態を,培養可能でヒトへも感染する可能性を持つ日和見感染菌への伝達性,ならびに環境の細菌群集への効果を実験的に解明する.環境中の薬剤耐性遺伝子の捕獲実験を行ない,伝達性に及ぼす複合汚染の効果を検討する. 1.金属の効果:特定金属による遺伝子伝播促進効果については,環境中からの伝達性プラスミドの伝達性と環境中量の変化におよぼす効果について解析する. 2.複合薬剤効果:複合的薬剤汚染効果についてはマイクロコズムによる細菌群集レベルでの実験を行い,これまでに研究されたことのない,陸域・動物由来細菌と環境中細菌との生態学的相互作用を含めた解析を行なう.さらに,低濃度の影響についての評価を行いたい. 本課題については海外の研究者との討論,共同研究が進んでいることから,発行の目処がたった「リスク軽減対策の提言」に加えて,2013年度から2014年度にかけては,当初の最終目標であるリスク評価に言及する論文を発表する計画である.
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