研究課題
シリコン量子情報処理に関する物性・量子物理学研究を実施する。まず、安定同位体純度を99.999%以上に高めた28Si単結晶を作製し、同位体起因の質量・核スピンの空間的不均一分布が徹底的に排除された疑似真空状態を実現する。そこにリンまたはビスマス不純物を系統的に添加し、1)電子および核スピンデコヒーレンスの機構解明と抑制方法の開発、2)電子・核スピンの高純度エンタングルメント生成、3)スピン集合体に位相情報を読み込ませる量子ホログラフィックメモリーの開発、4)超伝導量子ビットとシリコン不純物量子ビット間のエンタングルメント生成に関する実験を行う。主要実験手法はパルス電子磁気共鳴、パルス電子磁気二重共鳴(ENDOR)、フォトルミネッセンス励起分光(PLE)である。平成23年度は、特に安定同位体純度を99.999%以上に高めた28Si単結晶にリン(P)ドナーを添加し、その電子スピンと核スピンのコヒーレンスが極めて長い時間(10K以下の低温において電子スピン1秒以上、核スピン2秒以上)保たれることを示し、Nature Materials誌に論文として発表した。また、天然の同位体組成を有するシリコン結晶にPドナーと酸素-空孔スピン三重項欠陥(SL1)を添加し、リン電子スピンとSL1の間でのスピン相互作用を用いたフリップフロップの観測に成功しPhysical Review B誌に論文を発表した。さらにはSL1の電子スピンと近隣の29Si核スピンの間で量子情報の交換に成功し、29Si核スピンを量子メモリーとして利用できることを初めて示すことに成功し、その成果をPhysical Review Letters誌に発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度の成果であるSL1を用いた量子操作は計画段階では気づいていなかったアイデアであったが、研究の進展に従い自然発生し、その成果がPhysical Review LettersおよびPhysical Review B誌という物理学分野で最も影響力の強い論文誌に掲載されるまで進展した。
当初の計画どおり、シリコン中のビスマスドナーを量子ビットとして利用する研究を続けていて、現在は量子ビット操作で重要となる低磁場(60mT以下)での量子操作と量子状態の測定にも成功して、論文を執筆中である。今後もビスマスと超伝導の結合という当初の計画を進めていく。
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Nature Materials
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http://www.appi.keio.ac.jp/Itoh_group/publications/